第五章 傲慢の勇者:前編

 さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!! この街で本当にあったお話、第五弾の始まりはじまりぃ〜!!

 五人目は満を持して遂に登場、荒くれ者どもを統率する七人の勇者の筆頭がお出ましだ。勇者が七人もいるってぇなら気になったんじゃありませんか? 一体こんな一癖も二癖もある連中を束ねてるのはどんな野郎なんだ、ってね。

 それこそが今日お話する男になるんだが、本来ならこいつは一番最初にお話すべき相手でね。まあその、こっちにも色々事情があってこんな中途半端な順番になったことを、まずはお詫びを。

 はい大人の事情は終わり! ジャンジャジャーン、それでは早速お話を始めるとすっか!

 タイトルは、『傲慢の勇者 〜あるいは深窓の吸血姫の話〜』

 それじゃ、お聞きください。






 人は平等ではない。生まれたその瞬間から、人は誰しも努力では如何ともしがたい「差」を持って生まれてくる。

 性別の差。

 年齢の差。

 貧富の差。

 環境の差。

 身体の差。

 これらは全て、自身の努力とは全く別に持って生まれる、いや、持たされて生まれるものなのだ。誰が望んだ訳でもないのに、一度そうなると取り消しも出来ない要素が一生付いて回るのだ。

 例を言えば、待ち合わせ時間。

 本人の寝坊や、走れる道を走らずに遅れたのならそれは本人のせいだ。だが家を出たのが早くても道が混んでいたり、思わぬハプニングに遭遇して遅れることもある。

 普通ならその二つは別けて考えるのだが、生憎世間とは冷たいものだ。理由はどうあれ遅れは遅れ、その結果生じる不都合は全て自己責任という便利な言葉で封殺され背負い込まされる。

 生まれの差も同じこと。極論、資産を持った家に生まれれば人生の大半を無理などせず過ごせる。醜い跡目争いを生き残り資産を総取り出来れば、本格的に勝ち組の道を行けるだろう。貧乏人には一生無縁な話だ。

 「極東の神秘の国、ジパングにはこんな格言がある。『天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず』。ヒトは生まれた時は皆平等、皆同じように母の胎内から出て産声を上げる、そこに女も男も、老いも若いも関係ないとね」

 実際にはその格言には続きがあり、学問を修めることで人それぞれの差異が出るとあり、人生における勉学の重要性を説く言葉になっている。

 「きっと、この言葉を作った方は世間を知らないのだろう。それともよっぽど平和な時代に生まれたかだ。同じ言葉を奴隷に向かって言えるだろうか。親から病を引き継ぎ、いつ死ぬとも分からない苦しみに耐えながら生活する者に言えるだろうか。品行方正に生きてきたのに、たった一度通り魔に刺されただけで半身不随になった相手に、同じ言葉が言えるだろうか」

 人は皆、努力という言葉では避けられないモノに支配されている。勝ち組は最初から勝っているから勝ち組で、負け組もそれに然り。この世は所詮、誰も動かない椅子取りゲームだ。最初からそう決まっているのだから、それを嘆いてもどうしようもない。

 人はそれを、「運命」と呼ぶ。

 「人間、自分の生まれと賽の目はどう頑張っても変えられない。これは真理だよ」

 「はあ、そっすか」

 男はそこで初めて背後にやる気なく控えていた副官に話を振る。一応男は上司なのだが、副官は興味ないと言わんばかりにボリボリと頭を掻いている。というより男の話をまったく聞いていなかったようだ。その証拠に口の端から唾液の跡が伸びている。

 「なんだ、その間の抜けた返事は。いけないよ、教国の威信を背負った私達がそんなことでは。休息は取っているのかね」

 「ええ、まあ、つい今も」

 「嘘を吐きたまえ。明らかに疲れた顔じゃないか」

 「いや、これはあんたが長話するから……」

 「うーん、最近君も私に付き従って働き詰めだったからな。ちょうどいい、気分転換も兼ねて少し出てくるといい。聞けば街の広場にサーカス団が来ているとか。入場料は手間賃込みで私が出しておこう」

 「あんたは人の話聞いてよ。遊んできてもいいってんなら、そうしますよっと。でもいいのか、リーダー一人で」

 「問題ない。私を誰だと思っている?」

 金髪碧眼に整った顔立ち、陽光を反射する大理石の如き白い肌、典型的な白人の特徴を美に昇華させたこの男……名を「ミゲル」。

 七人の勇者を束ねる、団長である。

 この話はトーマスが刑部狸に騙されるより、

 ゴードンが戦乙女に受け入れられるより、

 クリスが土人形に思いを伝えるより、

 イルムが独眼鬼と気持ちを通じ合わせる、

 それ以前に起こった出来事である。





 ミゲルは貴族である。彼の代でちょうど十代目、先祖は旧魔王時代に武功を立てた騎士の出であり、それにより時の王と教会から爵位を賜
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