この喫茶店は夜も結構遅くまで営業していたりする。
特に何か考えがあってでのことではないけれど、ジアコーザという港町自体が遅くまで活気づいているということもあるし、夜型の魔物娘さんもいるというのも理由なのかもしれない。
ともかく今は夜もいい時間。カウンターテーブルには一人の美人が佇むように座っていた。
「はい、いつものです」
「ああ、ありがとう」
僕はそっと、注文されたコーヒーを差し出す。
「お好きですね、ブレンド」
「ふふ、ここの店のブレンドは実に私好みなんだ。これを口にするのが私の楽しみでね、ついこの前も来たというのになんだか二年近くも飲んでないような気がするよ」
「そんなに恋しかったとは照れること言ってくれますね。二年ですか。でも褒めても何もでませよ?」
「正確に言うと一年と三五〇日くらいの感覚かな? まぁ、別におだてたわけではないのだけれどね。ただほんとに私はこの店が好きだというだけの話だよ」
そう言って肩肘ついた手に頬を乗せウインクを一つ放ってくる彼女。こういう仕草はともすればキザったらしい滑稽なものになったりもするのだけれど、この人がすると本当に絵になる。それはもう至って自然で思わず赤面してしまうほどにかっこよい。
「……ご、ごほん。ご贔屓いただきありがとうございます。それではご注文の料理に取りかかりますんでしばらくお待ちください」
「ああ、よろしく頼むよマスター」
思わず照れてしまったことをごまかしつつ、料理に戻る僕。フライパンを熱しながら材料の準備を始めるその傍ら、ちらりと横目で彼女を見れば実に満足そうにゆったりと優雅にコーヒーを飲んでいた。なんだろう、ここまでコーヒーを飲むだけのしぐさが絵になる人はそうそういないのではないだろうか?
彼女の名前はソフィアさん。この町の自警団に所属する騎士のお姉さんで、彼女の詰め所が近いこともあって時々こうして僕の店で食事やお茶をしていく。今日も夜勤の前に食事を取りに来たという訳だ。
そして何をおいても彼女は美人である。すっきりとした目鼻立ちに凛々しい面差し。流れるような銀色の長髪はしっとりと落ち着いた輝きを放ち、すらりとした高い身なりは日ごろの鍛錬のおかげかよく引き締まりってはいるものの、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込むというメリハリのきいた体つきをしている。今日はこれから出勤だからか軽装の鎧を着こんではいるものの、それでも彼女の、というよりも体にしっかりとフィットしているそれが逆に彼女のスタイルの良さを引き出し、首元の黒いチョークや淡い青のイヤリングも彼女の女性らしさを引き立てていた。ちなみに大の大人でも使いこなすのが難しそうな愛用の両手持ちの長剣は、玄関横の預け箱に入れてもらっている。
いや〜、しかしあの胸部装甲の厚さはやはりなんとも……いやいや、お客さんに対して何を考えてるんだ僕は。いかんいかん。他にももっとするべきことがあるだろう? たとえばきゅっっと引き締まった腰回りとか、そこから続くふわりと大きく広がったスカートを押し上げているふくらみとか、さらにそこから続く魔法繊維の防護タイツに包まれている弾いたらプルンとしそうなふとももとか、そういうのをしっかりと目に焼き付けるべきじゃないかって……あれ?
「そういえばマスター」
「ひゃい!」
なんてことを考えていたら唐突に当の本人から声がかけられたものだから素っ頓狂な声を出してしまった。
「ああ、すまない、火を使っていたんだったか。申し訳ない、集中しなければ危ないな。私の事は気にせずに続けてくれ」
「いえいえ、大丈夫です。ちょっと油が弾けただけですから。ハハハ」
ソフィアさんに向き直って謝り、誤魔化すようにしてそそくさとメインの具をフライパンに入れる。油に落とした瞬間、じゅうっという心地いい音が立ち、ほんとに油がはねて手にあたってあっつい。でも我慢我慢。
きっと僕がこんな不埒なことを考えているとは微塵も思ってはないんだろうけど、僕は授業中に友達とメモの回し読みを教師に見つけられてしまったような心境だった。無論内容は『今日もソフィアさんの悩ましバディが悩ましいな!! byケネス』的な感じだ。
「そう? でも気を付けてね。私のせいでマスターが怪我をして休業なんてことになったら、きっと大勢が悲しむことになるだろうし」
「どうですかねぇ〜? きっと常連の皆さんは逆に笑ってからかいに来そうなものですけれど」
シャロンと姉さんたちは確実にそうするだろうな。でもそうしたらソフィアさんは見舞いに来てくれるのだろうか? ふむ、看護服姿のソフィアさんというのもありかもしれない。いや、ありだろう。あらいでか。
「まぁそれも否定はしないけれど……なんだかんだ言って内心では心
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