いきなりであれだけれど、僕の両親はジパング地方の出身だ。
ジパング地方──今僕たちが住んでいる地域と大きく異なる文化と価値観を持つ、遠く離れた土地。僕自身が生まれたのはこのジアコーザの街だけど、両親に連れられて何度か行った事のある両親の故郷。
そこで見る風景や人々の暮らしの多くは僕が慣れ親しんだものととても違っていて、子供心に胸が高まったものだった。
水田、あぜ道、木の家、大きなお風呂。変わった服装に、変わった食べ物に、変わったおもちゃ。その中でも特に僕が心引かれたのは、やっぱり食べ物だった。
お餅、納豆、こんにゃく、お蕎麦、お焼き、漬物、豆腐、団子、お饅頭、羊羹、すあま──
今考えるとなんとも子供らしいが、昔からお子様は「花より団子」と決まっているのだ。
そんなわけで僕が基礎学校を卒業してすぐこの店を開いたときに、お決まりのメニューに加えてジパングの料理があったのは、至極当然のことだったのかもしれない。
ある日の午後、今日も店の中には穏やかな日差しが届き、ゆったりとした空気が流れていた。
のどかな昼下がり。一心地つける温もり。
この空気が出したくて、店の椅子や調度品はすべて落ち着いたデザインと色合いのもので統一している。貰い物も多いし、所々に飾ったジパングの鉢植えや小物が違う毛色を醸しているけれど、まぁそこはご愛嬌ということで。でも、自分じゃ結構違和感なく溶け込んでていい味出してると思っているんだけど、どうだろうか。
そんな密かに自慢の店内では今、木漏れ日の窓際席でおじいさんがコーヒーを片手に読書をし、奥の席ではワーラビットの一団がおしゃべりに興じている。どちらも常連さんだ。
そして仕事が一段落した僕は、新しいメニューの開発に勤しんでいた。
(ふ〜む……もう少し抹茶を増やしても大丈夫かな……)
今作っているのは抹茶ケーキ。もっといえばそれに使う抹茶クリーム。
コーヒーと紅茶ばかりであまり緑茶が普及していないこの地方。なんとか緑茶の良さを解ってもらおうという試みの一環として、お茶っ葉を使ったお菓子を開発している途中なのだ。
(あ〜、でもこの前シャロンに食べてもらったときは苦すぎるって言われたしなぁ〜)
ところがしかし、入れる抹茶の配分が難しく開発は難航していた。まさにさじ加減が解らないという状況だ。
(やっぱり、こっちの人にはこの手の苦味に馴染みがないからかな)
どうしたってなかなか緑茶が広まらない最大の問題は文化の違い。僕なんかには慣れた味だけれどみんなの舌には奇妙に感じるらしく、緑茶の苦味と渋みはどうもとっつきにくいらしい。
そんな中でお茶に興味もってもらうためにお茶っ葉を使ったお菓子を作る、というアイディアは我ながら結構いい考えだと思う。抹茶ケーキを初め、抹茶クッキーや抹茶マフィン、抹茶ロールに抹茶エクレアに抹茶パフェと、メニューのアイディアも続々と湧いてきたし。……まぁ、全部抹茶の粉を混ぜただけなんだけどさ。
(いや最終的にお茶に手を出してもらうんだ。思い切ってこの量で行ってもいいのかも……)
とまあそんなこんなでとりあえず、手始めに抹茶ケーキで文化の溝を埋めようと思い試作を続けているのだけれど、これがまたなかなか難しいのだ。
(それに違う苦さっていってもコーヒーなんかは平気なわけだし。これくらいは……)
「──さん────ケ────!!」
(ああっでも、とはいえこれで苦手意識持たれちゃったら本末転倒だし……)
抹茶が多くて苦味が増せば、これを切欠にお茶に興味をもってもらおうというのに敬遠されてしまい意味が無い。逆に少なくすると、抹茶の魅力である折角の風味が損なわれてイマイチな物しか出来上がらない。
シャロンを実験台にして出された結果は、そんな当たり前にして最大の問題が再確認されただけだった。
ちなみにシャロンはあれからもしょっちゅう店に顔を出している。あの騒ぎの翌日にしれっと店に来たのには流石に驚いたけど、まぁ、その理由が単に一晩寝たら気にならなくなったってところがなんともシャロンらしい。ならあの騒ぎはなんだったのかってところではあるけれど……
「──ケン──聞い──か────」
「────様、ねえ──ケ──てば」
そういや、毒見……もとい試食を頼み始めてから体重が増えてどうたらこうたら言ってたっけ。でも、考えてみればタダで売り物(予定だけど)を食べてるわけだから、どっこいどっこいかも。別に気にすることでもないか。問題があるなら文句言いつつも毎回完食しなきゃいいわけだし。
なんてことを考えながら新しく配分を変えて作ったクリームを舐めてみる。
んんーー、このぐらい甘さがあれば大丈夫かな? あ〜、でもやっぱりまだ結論を出すには早いか
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