自由交易都市 ジアコーザ
〜穏やかな海にたゆたう商人の街〜
陸路、海路の要所であるこの街は、古くからの歴史を持つ港湾都市であり、今日でも物流の一大拠点として栄えている。
波の穏やかな内湾にありながら大型船舶の停泊が可能な港が設営できた幸運と、大陸の東西を貫く大横断街道と北方域の大動脈である北辺街道の合流地点近くに位置するという地理的な利点が、この街に大きな発展をもたらした。また、街から程近い一帯に古くからの遺跡・ダンジョン郡が存在していることも、人々がこの都市を目指し集う理由の一端となっている。
そのため、ジアコーザは夢と希望と野望を秘めた商人や冒険者といった様々な人々が季節を問わず集まり、そういった手合いを相手にする商売も非常に多い。
こういった環境のため、人の出入りの激しいこの街では伝統的に外からの来訪者に対しても友好的であり、美しい数々の歴史的建造物や充実した滞在者向けの手ごろな店などと相まって、観光客にも優しい街となっている。
またその延長として魔物に対しても寛容であり、多くの魔物たちの姿を見ることが出来る魔物にとっても安心なお勧めの街である。しかし逆に言えば、あなたが反魔物派の人間であるならばお勧めできない街ということでもある。なぜならば、彼らは既にごく普通の人間と変わらない、立派なこの街の一員なのだ。
(ナドキエ編集&出版社刊『安全安心・健康な世界の歩き方17 独立都市連合地域編』よりジアコーザ編冒頭から一部抜粋)
暖かな春の日差しが眠気を誘う、お昼時も終わったある日の午後だった。
活気あふれる港市場に程近いジアコーザのとある通り。そこに位置する喫茶店の店内には街の喧騒から切り離されたかのような、実にゆったりとした時間が流れている。
この喫茶店の名前は『茶房・はなかんざし』
ジパング地方のお茶や料理を出すちょっと変わった喫茶店として知られる、僕の店だ。
「……っく、ふぁぁ〜……ねっむいなあ、もぅ……」
来店もひと段落した店内。洗い物を終えて食器を片付ける僕の前にあるのはL字型のカウンターテーブル。その短い辺の三人がけ席の真ん中で、常連のワーキャットの少女がテーブルに突っ伏しながら気だるげにうめいていた。
「んにゃぁ〜、おひさまが手招きしてるよー」
自分の腕を枕にして脱力する彼女。栗色の髪からのぞく猫耳もくたんと寝てしまい、尻尾も椅子から投げやりに垂れ下がっている。
「今日は特にいいお天気だからね。僕も仕事が無ければお昼寝したいところだよ」
僕は仕事の手は止めずに相槌を打った。その意見には全くの同感だ。
というか、今日と言わずここ最近は連日でいいお天気で、寒さも和らぎ本格的な春が来てからというもの、とかく青空と日差しは真面目な勤労者諸氏を怠惰へと誘惑してくる。
「でしょ〜。ケンちゃんも一緒にお昼寝しよ〜よ〜」
「はは。そうしたいのは山々だけど、お店開いてるからできない相談だね」
うつむいていた猫娘は顔だけを挙げ、あごをちょこんとテーブルに乗せた姿勢で午後の安息に誘ってくる。相変わらず気だるげな口調で、背筋もぐてんとしただらしない格好だ。ちなみにケンちゃんというのは僕のあだ名だ。一応本名から取られてはいるのだが、身内を含めほとんどの人間はこのあだ名で呼ぶ。
「ぶ〜ぶ〜。だったら店閉めちゃおうよ〜。どうせお客さんなんて来ないってぇ〜」
相変わらず、まったくもって失礼なやつである。確かに大繁盛の店ではないが、お客が全くのゼロなんてことはない。現に今だって店の奥、四人がけのテーブル席の一つではコカトリスの女の子と若い男が楽しげな時間を過ごしているのだ。
あれは……カップルだな。楽しそうに食べさせあいっこなんかしちゃってなんとも微笑ましい。まぁ、その他にはお客さんなんて居ないのだけれど、そこは気にしないでおこう。
というかだ、
「今日は学校どうしたの、シャロン?」
今僕の前でぐうたれている紺地を基調とした制服姿のワーキャットの彼女──シャロンは、中心街の学園に通うれっきとした高等部の女子学生だ。授業があるはずのこの時間に、店にいていいわけがない。
「ん? んにゃぁ、それね〜。なんか午前中にケセランパサランの集団が校舎に迷い込んだらしくってさぁ、それを追い出すんで午後から休校になったのよ。やったね」
ケセランパサランは毛玉をまとってふわふわと浮遊する植物型の魔物だ。気性も穏やかで特に危険性のないような彼女たちではあるが、実は違う。彼女たちの毛玉には非常に強力な幻覚作用と思考を低下させる作用があり、これを吸ってしまうと「幸せな気持ち」となってその気持ちのまま、彼女たちと交わり続けることになってしまう。要するに、媚薬入りの麻薬を振りまきながら飛んでい
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6 7]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録