一話:サイカイ

 小さい頃の俺の幼馴染にエアルという奴がいた。

 若葉のように青々とした髪の毛に、ちょっとぽーっとした感じの変わった表情、そしていつも腕に包帯を巻いていた。ちょっと不思議な男の子だ。

 エアルと俺はとても仲が良くて、小さい頃はよく一緒になって遊んでいた。ある時はそこらを駆け回り、ある時は追いかけっこをしたり、ある時は走って競争したり。……思い返してみると俺達は二人して、ずっと走っていた。

                       『僕は風になりたいんだ』

 それがエアルの口癖だった。風になりたいと願った彼は空を切り、駆けていく。まさしく風のように。幼い頃の俺もそんな彼に触発されたのかもしれない。何をするにも、どこへ行くにしても俺とエアルは走っていたと思う。かけっこではいつもエアルが勝っていた。しかし、お互いに勝ち負け関係なく、ただ二人で走る事を楽しんでいたのだ。

 しかし、ある日突然エアルは俺の前から姿を消した。何も告げずに、どこか遠くへ行ってしまったのだ。とても寂しかった。だからそんな気持ちを払拭する為にも、その日から俺は毎日一人で走り続けた。あいつがなろうとした風になる為に。そしてあいつがなりたいと願った風を感じていれば、どこかへ消えてしまった親友と繋がっていられると信じて……。


「……懐かしい夢を見たな」

 目を開けると、見慣れたレンガ造りの天井。ここはとある王国の宿舎の小部屋である。あれから十年が経って、俺はまだ走り続けていた。十年前と変わった事は二つ。走る際に槍を携えていることと、『疾風のガル』なんて大層な通り名が付いたぐらいだ。俊足を国に買われた俺は槍兵として軍に従属していた。十年走り込んだ脚力を生かして戦場を駆け回った。走る障害になる敵を手早く始末する為に槍術もたくさん努力をした。全ては風と一体になる為に。
「これで疾風なんて……ホント、俺にはもったいない通り名だよ」
 他の槍兵に比べれば、確かに俺は足が速い。しかし、まだまだとても風になんてなれやしない。エアルが望んでいたのは、きっともっと速く、もっと鋭かった筈だ。まぁ、俺の独りよがりなのかもしれないけれど。

「ガルくん、非番のとこ悪いんだけど隊長がお呼びだ。起き次第すぐに来てくれって」
「え? あ、ああ。おう」
 同僚から声をかけられて、身を起こした。




「俺を竜騎士に……ですか?」
 突然呼び出された俺は、隊長に衝撃的な事を話されていた。
「ああそうだ。近頃、近隣諸国において竜騎士部隊が名をあげているらしくてな。我が国でもその先駆けとなる者を選出しようという陛下のご意向でな。お前の槍捌きを見込んで陛下直々のご指名だ。光栄な事だぞ!」
 竜騎士。竜系のモンスターに騎乗し、戦場を四方八方へ飛び回る役職だ。恐らく戦場で、いや、今この世界において最も『風』に近い存在の筈だ。実は何度か調べた事がある程に興味は持っていたのだが、竜騎士という職はそう簡単に就けるものではないのだ。
「しかし隊長、比較的気性の良いワイバーンであってもとても簡単には人間に手なずける事はできないと聞きますが……」
 これが理由である。そもそも乗るワイバーンを確保できないのだ。もちろん野生のワイバーンも生息しているが、彼女たちを手なずけるのは非常に困難であり、『ワイバーンに騎乗する前にこちらに騎乗される』、なんてピンクなジョークがある位だ。
「いや、そこは安心してもらって良いぞ。小さい頃から人間と友好関係を持っていたワイバーンが我が軍に志願してくれてな。今後ガルはそのワイバーンと生活を共にしてもらう事になる。これがえらいベッピンさんでなぁ! いやー羨ましい羨ましい!!」
 ガハハと俺の背中を叩きながら隊長は笑う。
「そうと決まれば早速顔合わせだ! 彼女にはもう来てもらっているんだ。君、入ってきなさい」

隊長の後ろからひょこっと女の子が顔を出す。両手をもじもじと動かす度に、彼女のアイデンティティである大きな翼が揺れる。どこか恥ずかしそうにしながら、こちらから目を逸らしつつ口を開いた。

「エアルです……よろしく」

 瞬間、雷にでもうたれたのかと錯覚する程の衝撃が俺を襲った。若葉のように青々とした流麗な髪、どこかぽーっとしているようにも見えるちょっとツリ気味の大きな瞳、そして手首に巻かれたボロボロの包帯……。

 十年という時を経て 俺は親友と思わぬ形で再開した。




「まさか、僕の騎士がガルだったとはね……ちょっと僕まだかなり戸惑ってる」
「お、俺だって……というか、どうして隠していたんだ?」
 隊長は「じゃあ後は若い者通しで仲良くな!」と豪快に笑いながらその場から去り、後にはお互いにどう接していいかわからない俺と翼竜だけが残った。エアルは俺の問いかけにゆっく
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