死 ― critical hit ! ―

白く霞んだ視界
粘りつくようなまどろみから意識が少しずつ明晰になっていく


「うぅぅっ!なんでアナタは・・・・うぅっ!」

美しい声
このような声を聴きながら俺は目を開いた。
そして・・・・すぐ閉じた


― なんだこれ?・・・・ ―


気が付いたら、傍らでスケスケシースルーな血の気のない女が何故か悲しんでいる。
巨乳・安産体形・エルフ耳。正直属性と癖のオンパレード、というよりかなり渋滞している。
正直、彼女はかなりの美女だ。もっとも「色白」というよりも「血の気」のない女である事を忘れるならば、だが。
例えるならエロ漫画の常連である「八尺様」や「エロ地縛霊」的な。

キョロ、キョロ

脳裏に浮かんだ「エロ漫画」というワードで「あるもの」を探す。
スケスケ痴女ももちろん気になるが、それよりも「アレ」を見られるのは何よりも避けたかった。
俺は地面の上に投げ捨てられたスマートフォンを手に取る。
衝撃で罅が入ったモニター。それでも辛うじて何が表示されていたのかはわかる。
その映像を目にしたとき、俺は全てを理解した。


― そうだ・・・・ ―


全身を言いようのない虚無が包む。

「そうだ・・・俺、死んだんだ・・・・」




話はクリスマスイブに遡る。

「アナタねぇ!クリスマスで一緒に過ごせないってどういうことよ!!」

欧米では伝統的に家族と過ごす人々が多く、企業においてはあらかじめ休日として割り振られていることが多い。
しかしながら「日本」にはそのような風習はない。
いくら休日申請を行おうとも、いわゆる「公僕」、警察官に休日の自由はない。
一地方公務員である「金田桂一朗」は恋人に悪いとは思いつつも、思わずスマートフォンを耳から離す。

「ちゃんと聞いてンの!」

そのことが彼女の怒りを更にヒートアップさせてしまったようだ。
コストコのロティサリーチキンとか、ただの発砲ワインではなく「ちゃんとした」シャンパンが意外と高かったとか。
ありとあらゆる不満を口にする。

「門崎享子」

俺の恋人だ。

― そういや享子の特技に「フリースタイルラップバトル」ってあったな・・・・ ―

毎度の不満ラップを聞き流す。
そして、そこまで拗れてしまったら行きつく先は一つだ。

「私達・・・もう終わりね」

取り付く島もなく彼女から告げられた別れ。
彼女とはこういった別れは何回も告げられている。でも、その都度彼女の頭が冷えたくらいに復縁の電話がかかってくる、それがいつものパターンだった。


そう・・・
この時俺は忘れていた
人生とは時として思いもよらない落とし穴があり、それは常に不運な犠牲者を待ち受けていることに・・・



一仕事終えて俺はギネス・アイリッシュスタウトを飲みながらネットの海を泳いでいた。

「うわっこれ、かなりキてんじゃねーか」

全身に「こくまろザーメンサーバー」とか、私は「中出しをするものされるもの大好きなド変態です」等々、下品な書き込みをされた覆面の人物が魔界銀製のぺ二バンを着けたハイオークとジーニーに輪姦されるビデオが表示されている。
魔物夫婦がこういったビデオを作ることは異常ではない。彼らは誰よりも愛し合っていることを自慢したがる。売れ行きはそれだけ評価されていることにつながるし、小遣いも稼げる。
俺はあまり逆アナルには興味がないが、性格的に意地悪と称されるハイオークの言葉責めは既に匠の域を超えている。彼女にややハードではあるが愛される人物に少し嫉妬してしまう。

「とりあえずネタとしてダウンロードしておくか」

― 素敵な出会いを貴方に!結婚相談所「悪魔の穴」!登録は無料です!!! ―

こういったサイトのバックには「過激派」と呼ばれる魔物の派閥は一枚噛んでいることが多い。ビデオを見て魔物を嫁にしたいと思う人間が増えれば彼らとして万々歳なのだろう。
もっとも俺は魔物に否定的な感情はないが、それと嫁にできるかは別だ。

ププッ

ダウンロードが終わった頃にスマートフォンが鳴る。彼女からのメールだ。

「いつものか・・・・」

内容はいつも通り。言い過ぎたことへの謝罪とまた一緒に過ごしたいと書かれていた。


― ごめん。俺も悪かった。謝罪といってはなんだけど、年末にハワイに行かないか?  ―


俺は彼女に返信を送った。
「公僕」にクリスマス休暇はない。
しかし・・・・。
他業種にはない「正月休み」があるのだ。
享子も俺も公務員。
休日の把握は難しくない。

「俺からのちょっと遅れたクリスマスプレゼント」

そして俺はあらかじめダウンロードしておいたホテルのムービーを送った。そう「送ってしまった」のだ。


ププッ!


「はい金田です」

「アナタって最低!!!変態!!!!!!!」

それだけ言って彼女は乱暴
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33