「キサマら僕を誰だと思っている!!!」
打ち捨てられ廃墟同然の倉庫に高い少年の声が響く。見ると身なりのいい少年を屈強な男が拘束している。手や足を振り回すが、少年の体躯では男を退けるには至らない。
「ええ。知っていますよ霧生院辰彦様?」
男に辰彦と呼ばれた少年の顔が青ざめる。
彼を霧生会の会長の息子であると知っていて誘拐するとなると、自殺志願のイカレではない限り彼を誘拐することのデメリットよりも、誘拐から得られるメリットを優先したことになる。
即ち、彼らは「プロ」ということになる。
「おやおや、勘違いしないでいただきたい。指示したのは霧生院護之助様。貴方の御父上ですよ?」
男がさも当然のように辰彦に語り掛ける。
「なら直ぐに僕を離せ!」
「ええ、直ぐに離しますよ。楽しいショーを見てからね。・・・・連れて来い!」
暗がりから別の男に引きずられ女性的なシルエットが浮かびあがる。
輝くような銀の髪
白磁のように透き通るような白い肌
やや肉感的な肢体
「クロエ!!」
辰彦が叫ぶ。
そこには手を荒縄で縛られた彼の家庭教師であるクロエが引き立てられていた。
「辰彦坊ちゃま・・・・」
クロエが絞り出すような弱弱しい声をあげる。
「御父上様からはもうあの女を愛する気もなくなるよう、貴方様の目の前で滅茶苦茶に犯せと言われているのでね。やれ」
ビリィィィィィ
「嫌ァァァァ!」
彼女を引きずり出した屈強な男がクロエの服を強引に引き裂く。辰彦の目にクロエの年相応の控えめなレースが施されたブラとショーツが露わになった。
「感謝してよね。アンタみたいなババア相手にチンポ立ててやってんだから」
下卑た笑いを浮かべながら男の手がクロエのショーツにかかった。その瞬間だった。
バァン!
炸裂音と共に、辰彦を拘束していた男が肩を押さえてその場に蹲った。肩を押さえる手の隙間から鮮血が迸っている。
「何を・・・!」
辰彦の手にあったもの。
丹念に施された彫刻とその小ささから、アクセサリーまたはおもちゃのようにも見える「銃」から青白い硝煙がゆっくりとたなびいていた。
ー ノースアメリカンアームズ・ミニデリンジャー −
二連発の小型護身拳銃の代名詞である「デリンジャー」と名がつくが、その実態は超小型のシングルアクションリボルバーだ。
キングサイズの紙巻タバコとさほど違わない大きさながら、狩猟や護身用に用いられる22ロングライフル弾を5発発射できる。
22ロングライフル弾は反動も弱く子供や女性でも難なく撃てるが、その威力は人一人殺すには問題ない。
これは彼の叔父が辰彦に「誕生日プレゼント」として与えたものだ。父親である護之助が知らなくてもおかしくない。
「へへ・・・、坊ちゃん危ないおもちゃを捨ててくださいよ」
男が辰彦に手を伸ばそうとした。
「動くな!!」
ガチッ
辰彦は素早くウィークハンドである左手を銃に被せるようにしてハンマーを起す。この銃はその小ささから安全の為片手でハンマーを起こしずらい構造になっているからだ。
「クロエを離せ!早く!!」
男が身体をよけると、クロエが辰彦の元に駆け寄る。
懐から小型のナイフを取り出して彼女の手の縄を切ると、引き裂かれた衣服の代わりに着ていた上着を渡した。サイズは合わないが、少なくても彼女の身体を覆うくらいにはなるだろう。
「追ってきたら撃つ。わかったな?」
辰彦がボスの息子である以上、彼らにできることはない。
自分の息子が家庭教師にうつつを抜かすのが我慢できなくて、目の前で犯せと命令するような父親だ。
此方でも銃はあるが、それで応戦でもしようものなら自分たちの逸物を麻酔無しでペンチで引き抜くことくらいはするだろう。
「さっさと行けよフリークス(化け物)が!!!」
男の声が空虚な倉庫に響いた。
あの日、彰くんとグランマに連れられて私は「学園」にたどり着いた。
「学園」では私と同じような牛さんのような角やしっぽを持った女の人達がいた。
女の人達は皆笑顔だった。
ー もう・・・明日におびえなくていい −
ー 病院のベットから出てみんなと一緒に遊べる −
幼い私にはまだよくわからなかった。だから私は見るものすべてに怯えた。
顔をあげると彰くんが私を見ていた。角を切り落とそうとした私の手からのこぎりを払いのけた拍子に、傷つけてしまった指は丹念に処置され包帯を巻かれている。
「大丈夫だよ若葉」
彰くんは私を抱きしめてそう言ってくれた。
私達はこの「学園」の広い体育館のような場所に集められていた。
壇上では幼稚園児くらいの角の生えた子がマイクの前に立っている。
「皆、突然のことで混乱しておると思う。じゃが暫し儂の話を聞いて欲しいのじゃ。儂はバフォメットのジ
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