ファイト!

― 魔法 ―

魔物娘と呼ばれる彼らは単体で我々の科学技術の範疇を超えた事象を発生させる。
されど、それを「魔法」と単純に一括りしてしまっては思考停止しているのと同じだ。
丹念に調査と考証を行えば、これらの事象は我々の科学原則に則っていることが理解できる。
例としてあげるのなら、「竜種」の飛行技術だ。
彼らは翼をはためかせて空中の広がる生命エネルギーを集め、翼後端から背後に押し出して飛行している。いうならばオールでボートを前方に進ませることに近い。
確かに「生命エネルギー」という概念は我々の科学原則には存在しない。
だがしかし、それが生命エネルギーがこの世には存在しないと断ずることはできない。ただ単に我々の科学がその存在を無視していただけに過ぎないのだ。
ある作家は「高度に発展した科学は魔法と変わらない」と述べたが、これは自分達に理解できないことを都合のよい「魔法」で片付けていいと言っているわけではない。
魔法や魔術に思えることでもその裏には隠された「理論」や「原則」が存在し、それを見抜かなければならないという心構えを説いたものだ。

〜 里中里桜著「竜たちの天空航法」より抜粋 〜


ギィ・・・

ここは竜翼通りにある「門の向こうの国」から来た旅行者を対象にしたバーの一つ。里桜はスツールに腰掛けるとカウンターの向こうのバーテンドレスに声を掛けた。

「ご注文はいつもの身体に悪い酒かしら?」

「ああ頼むよ」

予定より早く報告書を書き上げた里桜は暇を持て余していた。帰りの飛行船は三週間後。普通の旅行者なら観光に出掛けることもあるが、「学園」で魔物娘を見慣れている彼にとっては特に心惹かれるものではない。
ホテルの部屋にいても気分は明るくなれず、こうしてバーで酒を飲んでいる。

ゴトッ

彼の目の前にメキシコで「カバジート」と呼ばれる、細い試験管のようなショットグラスが置かれる。置かれたグラスを見ると中にはウィスキーやブランデーと異なり淡い琥珀色をした液体が満たされていた。


― ドンフリオ・アネホ ―

最近大手の酒販会社が取り扱い始めたテキーラで、比較的重い味わいの多いテキーラのアネホ(古酒)の中でもリュウゼツランの持つ爽やかさを残しつつも落ち着いた後味を感じることのできる銘酒である。
アネホだけに一瓶6000円程するが、このクォリティーなら納得できる。


彼は軽くテキーラの香りを楽しむと、それを一気に飲み干した。見せつけるようにブランデーグラスで高いテキーラをちびちび味わうのは少々スノッブ(気取り屋)だ。そんなことをするのはハリウッドの浮かれ者くらいだろう。素直に作られたテキーラはこうして味わうのがいい。

「テキーラの楽しみ方がわかっているわね。ところで上物の虜のワインが手に入ったんだけど試してみない?」

ドラゴンのバーテンドレスの目の奥が妖しく輝いていた。「虜の実」から醸造される外地名産の「虜のワイン」は口当たりが良く、気が付いたら腰砕けになることが多い。知らずにお持ち帰りされて、翌朝ホテルの自室で起きたら隣に見知らぬ魔物娘が寝ているなんてことはごめん被る。

「止めておくよ」

里桜はやんわりと彼女の誘いを断った。

「あらつれないわね。心に決めた娘が居るのかしら?」

彼女の言葉に少し思案し、彼は口を開いた。

「ただ・・・。ドラゴニアを離れる前に一言別れを言いたい人がいるだけさ」

里桜は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。


「彼女」 ドラゴンゾンビのダリアが姿を消してもう一週間。
あの屋台の男と約束した通り僕は彼女と会う気はなかった。
だが気付くといつも彼女の姿を探していた。人混みで足を止めて振り返ったこともある。
そうして・・・・、ふと我に返り自己嫌悪に陥るのだ。

〜 馬鹿だな・・・ 〜

「門の向こうの国」、つまりは「日本」では魔物娘を大々的に受け入れている。だが幾つかの種族は入国することができない。

ローパーや寄生スライムのような明確な意思疎通ができず、無差別に魔物化を行う種族

マタンゴやウシオニのような広範囲にパンデミックを引き起こす可能性のある種族

特にドラゴンの戦闘力と腐敗のブレスによる広範囲のゾンビ化を引き起こすドラゴンゾンビは例外なく日本へは入国できない。
かつて「レーム」と呼ばれるデーモンのテロリストがメキシコでドラゴンゾンビを召喚した時は、メキシコ全土が死の国よろしくゾンビとスケルトンの楽園と化してしまった。
もっとも血で血を洗う抗争を繰り広げる麻薬組織やギャングも一緒に壊滅したため、今ではスケルトンがほのぼのとマカイモを育てる牧歌的な魔界農業国へと変わった。
そのためドラゴンゾンビは核兵器並みの扱いを受けている。
いくら「学園」といえどもルールは厳密に適応されているのだ。
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