日の出前の高速道路が好きだ。
ヒリつくようなキンと張りつめた空気の中、薄明りの中を愛車で走ることを俺は趣味としていた。
薄闇の中を弾丸のように走り抜ける、クラシカルかつ今の自動車からは廃滅された有機的なフォルム。
アルミシルバーに塗装された、それは言うなれば走ることのみに特化した「鉄の馬」。
それが俺の愛車である「ケータハム・スーパーセブン」、の軽自動車バージョンである「セブン160」だ。
・・・笑うな。
愛車の名誉のために言わせてもらう。コイツのエンジンや規格は確かに日本の軽自動車規格に適合しているが、決して非力ではない。当然のことながらスーパーセブンの癖のある走りも健在だ。
快適装備皆無の本当の意味での「走る」ためだけに生み出された車といえる。
そんな車のどこがいいのか?
それこそ愚問だ。
機会があれば一度乗ってみるといい。
バイクよりも地面に近く、例えるなら体育座りのまま地面から数センチ浮かんでそのまま疾走するような走りはこの車以外にはまず味わえない。
この快感を車好きなら理解できるはずだ。
しかしながら、今の俺は走りを楽しむ余裕なんてない。
「・・・・・」
俺の車の数メートルを一台のキャデラック・エルドラドがピッタリと追走していた。ヘッドライトの陰で運転手の顔は伺えない。オマケに黒塗り。ハッキリ言ってヤバい車だ。「悪い奴大体友達」的なバッドガイが乗っていてもおかしくない。
こう言っちゃなんだが、俺は「セーフティードライブ」を信条にしている。基本的にクラクションは鳴らさないし、パッシングもしない。
ターゲットにされる理由なんてはっきり言って皆目見当がつかない。強いて言うならば、この車に尾けられる前にサービスステーションで休憩をとったくらいだ。安全のために着用しているツナギは蒸れてしょうがないのだ。
「この手はできれば使いたくなかったんだけど・・・」
俺はセブンを左側に寄せゆっくりとスピードを落とした。相手がこちらに害意がなければ追い越すだろうと。そうじゃない場合は前に出るだろうが、俺のドラテクでしのげる。
まぁ、こんなふざけたマネをする人間のツラを拝んでやるのも目的ではあるがな。
ロードスターが近づく。その瞬間だった。
「誰も乗っていない!」
・・・エルドラドの運転席には誰も乗っていなかった。そこには暗闇しかなかったのだ。
「お、おい冗談じゃねーぞ!!!」
俺は半狂乱になりながら、アクセルを踏み込む。狂乱する馬の嘶きのようなエキゾーストノートを響かせながら、セブンが銀の弾丸のように飛び出した。
「何だよあれ!何だよあれ!」
叫ぶが誰も答えない。・・・返事があったらあったでホラーだが。
見る見るうちに幽霊エルドラドは俺の視界から消失した。
「首無しライダー」
「高速道路を彷徨う事故車」
高速道路絡みの怪談は多い。俺もそういった手合いの話は知っていたが、自分が体験したのは初めてだ。
「何はともあれ逃げられ・・・・?!」
あのエルドラドが後部ミラーの視界に再び現れたのだ。
「ニトロでも積んでんのかよ!!!!」
こっちはとっくに最高速だ。だが、そのエルドラドはぐんぐん加速する。
「畜生!!」
もう既にアクセルはベタ踏み。俺にもうできることはない。こうなっては一刻も早く高速道路を降りるしかない。しかし、最寄りの出口さえ20キロ先だ。詰んだ。
鋼鉄の塊のようなアメリカンコンバーチブルが俺のセブンをゆっくりと追い抜いて前に出る。
「!」
ギギギギ・・・
コンバーチブル車の特徴である開閉式のソフトトップがゆっくりと開き始めた。そこには・・・。
「あはッ!おまんこきもちイイイイ!!!!」
グチュグチュと、まだ未成熟な花弁に掌をほとんど入れるようにかき混ぜる丸みを帯びた肢体が俺の視界一杯に広がる。
「・・・・・・・・」
エルドラドの後部座席では小柄な姿の幼女がオナっていた。
「いやなんだよアレ!意味がわからんわ!!」
渾身のツッコミを入れる。よくよく見るとその幼女の背中から生えた触手がシフト操作とハンドル操作をしている。
「だから誰もいなかったのか・・・」
ー ゲイザー −
「門」からやって来た超常の存在「魔物娘」。その一つがゲイザーだ。
ルビーのように赤い一つ目と同じ色の目を持つ触手が特徴で、人間的な感性からすると怪物以外の何物でもない。
しかし、その小柄な肢体はマニアからの評価が高い。
「何だタダの露出狂かよ」
俺がハンドルを切ろうとするが・・・。
「う、動かねぇ!!!」
俺は失念していた。ゲイザーの職能は「催眠」であることに・・・。
「離れろ離れろ!!!」
意識を集中するが、手も足もアロンアルファで接着されたかのように自分の意志で動かせなかった。そ
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