「学園」が生まれた日 ― 蟷螂の斧 ―

魔王が勇者と共に手を取り「絶対的強者」である「主神」を敗走させた事実は多くの国に衝撃を与えた。当然のことながらその事実は入念に箝口令が敷かれたが、しかしいずれはバレてしまう。
主神についていた多くの国は主神にそのままつくことを選んだが、しかしながらどの世界においても要領の良い人間はいるものだ。


― 医術大国「アリスアリア」 ―

かつては様々な国に優れた衛生兵を輸出していたが、主神教の威光に陰りが見え始めるとあっさりと信仰を捨て親魔国に変わった。親魔国の中には移住の際にある程度選別を行うことがあるが、アリスアリアにそれはない。
それどころか、移住したばかりの魔物娘には国からある程度の支援があることもあり、移住先に選ぶ魔物娘は多かった。
その国の「実際」を知らぬまま・・・・。


「ハァハァ・・・・!」

薄暗い廊下を一人の男が走る。その目は血走り、身に着けていた白衣も所々破れ煤けていた。

カツ―ン・・・カツ―ン・・・

男を追うようにゆっくりとした足音が背後から響いていく。

「もう来やがった!!」

男は騒然と並ぶドアの一つを乱暴に開き中に身体を滑り込ませた。内部には子供一人くらい入るポッドが犇めいていて、そのポッドの一つをこじ開けると、男はそこから何かを引きずり出した。

「来るな!!!」

暗闇に向かって男が叫ぶ。
男の腕の中、ポッドの中で中で生育されていたまだ幼い「マンドラゴラ」が拘束されていた。その細い首筋には鋭いメスがあてられている。

「うぅぅっ・・・・」

押し付けられた拍子に皮膚を切ってしまったのだろう。少女の首筋に赤い線がゆっくりと伸びていく。

「黙れクソ虫が!殺されてぇのか!!!」


移住する魔物娘を選別せず、移住した魔物娘には厚い支援が受けられる「アリスアリア」。その現実。
それは・・・。

― 魔物娘の効果的な「断種」 ―

アリスアリアでは魔物化を止める研究が秘密裏に行われていた。そして将来的には人類に有用な魔物娘のみを残し、他の有害と判断された魔物娘を絶滅させることすらも考えていたのだ。
魔王軍が親魔国を侵略することはタブーだ。そんなことをすれば他の親魔国にも影響を与えかねない。
幸いまだ人魔に死傷者は出ていないが研究を続ければいずれはそうなる。だからこそ魔王軍とは関係ない独立勢力である「赤フン天狗」がこの国の悪根を断つために攻め入ったのだ。


「貴様・・・・その血を見て何も思わないのか?」

カツ―ン!

男を追っていた影が闇よりその姿を現した。
素肌に赤褌のみの少年だった。しかし、その少年から放たれる「圧」は幾つもの修羅場を潜り抜けた益荒男のそれと変わらない。
緋色の瞳に怒りを込めて少年が男を見る。

「血?植物が血を流すわけないだろうが!!」

「ソイツを離してやれ。痛がっている」

「何を言ってやがる!!そうだ俺の身の安全を保障しろ!!そうすればコイツを放してやるよ!!」

男ががなり立てる。

「本当に、お前は何も思わないんだな・・・・」

少年が目を瞑る。

〜 よいか公介よ。刃を捨てよ。己が身体を刃に変え悪鬼を滅するのが本道 〜

彼の師匠の教えが脳裏に浮かぶ。

〜 そして怒れ。怒りは力なり 〜

「汝、人に非ず!!!」

公介は地面を蹴り、男に肉薄する。

「皐月流奥義!!国崩!!!」

魔物娘すら葬る必殺の一撃が放たれた。


諸兄は「ウシオニ」の存在はご存知と思う。
「外地」ジパングに生息する固有の魔物娘であり、比較的人間に友好的な魔物娘が多いことで知られるジパングでも「危険」とされる存在だ。
魔物娘が人間を超える知力、体力を誇るのは常であるが、ウシオニの危険性はそれだけに留まらない。
その特性はウシオニの「血」にある。
ウシオニの血を男性が浴びると発情を抑えられなくなり、人間の女性が浴びるとウシオニに「成ってしまう」。
ではウシオニを倒すことは不可能なのだろうか?。

否。

単純なことだ。
ウシオニの体外から衝撃を与えて出血の間もなく体内の「心臓」を破裂させればいい。
皐月流奥義「国崩」はその考えから生まれた。
対象の心臓に向かって掌底による衝撃を与えて対象に疑似的な「心不全」に陥らせ心臓に血を溜める。
そして対象を蹴り上げ衝撃が足を伝って地面に逃げないようにした上で、膝打ちと同時に強い打撃を対象に撃ち込み心臓を「破裂」させる。「皐月流」が「殺鬼流」とかつて呼ばれていた所以である。
理論上、確かに倒すことができるだろう。
しかし、これには一つ「仕掛け」が施されていた・・・。


少年が掌底を撃ち込みそのまま男を蹴り上げる。

「悔い改めろぉぉぉぉぉ!!!!!」

両手を特殊な組み方で組み、男に鉄槌の如く振り下ろした。

バシュッ

「ガハッ!」

肺臓から汚い
[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33