「学園」が生まれた日 ― 二つの世界 ―

人を襲い喰らう「魔物」、そしてそれらを統べる「魔王」。
人の力では魔物を倒すことはできず、彼らに対抗することができるのは「主神」の加護を受けた「勇者」のみ。
「勇者」は聖なる力で悪しき「魔王」を倒し、世界は平和になった・・・。
諸兄はこの「子供だまし」の物語の実際は高位の存在である「主神」が、増えすぎた「人間」を効率よく刈り取るために「魔物」とそれらを統べる「魔王」を生み出したことは承知のことと思う。
人類が増えれば「魔物」がその数を減らし、逆に魔物が増えれば「勇者」によって滅せられる。
「勇者」が「魔王」を倒しても決して「平和」になることはない。
与えるつもりのない「希望」、それは例えるなら「高い木の上に実った果実」と言い換えることができる。
望む果実に手が届くことは無く、時折地面に落ちた果実を得るのがやっと。木を登っても、決して果実に手は届かず木から落ちて無残に落命するのがオチだ。
だが、この「主神」が作り出した「システム」に抗う者が現れた。
旧魔王時代ではエサである人間に似ていたために蔑まれていた「サキュバス」と、彼女を愛する主神の加護を受け魔物を滅する宿命を持った「勇者」。
主神による「システム」では結ばれるはずのない二人は、サキュバスが魔王の座についたことにより結ばれた。
そしてその影響を受けた「魔物」は「魔物娘」になり、人を愛するようになったのだ。
さて、ここに解かれていない「謎」が一つある。
現魔王、つまり「サキュバス」の来歴は依然として不明ということだ。旧魔王時代において魔物にとって人間は「食料」以外の何物でもなかった。それは比較的人間に近い存在であった「サキュバス」とて同じ。
現魔王即位にともなって「魔物」は人間と愛し合う「魔物娘」に変わったとしても、変化した彼らはあまりにも「人間的」過ぎる。
若い精神学者が数年前ある学説を発表した。

― 現魔王は元「人間」である。故に魔物娘は人間的な精神構造をしている ― 

確かに旧魔王時代においても人間が魔物化することはある。何らかの形で人間の意識を持ったまま魔物化し、そのまま魔王として即位すれば全ての魔物を「人間的」に変えることができるだろう。
魔物と魔物娘の在り様の変化を考察した、非常に斬新な学説ではある。しかし、この学説は現在においては虫食いのような断章のみしか残っていない。
何故ならばこの学説を提唱していた学者はある日を境に謎の失踪を遂げ、彼の研究室は論文共々不審火により焼失してしまったのだ。堕落神の教会で彼を見かけたと証言する彼の友人はいたが、彼と彼の論文はこの世界から永遠に失われたのは事実である。


「ククク、儂を倒しに来た勇者と聞いていたが、まだまだ子供じゃのぅ・・・・」

暗闇から重々しい声が響く。その声は老婆のようでもあり、獣の咆哮にも似てまだ幼い彼を震え上がらせた。

逃げたい

だが逃げれば・・・

「黙れ!貴様が大人しく女神の聖水を渡すのなら命は助ける。だが拒むなら・・・・」

チャキッ!

内なる恐怖を御してまだあどけない少年がその手にした剣を構える。

「主神の名において、勇者である僕が滅する!!」

「言うたな小僧!!!」

暗闇から「ソレ」が立ち上がる。

「!」

それは「異形」だった。
捩れた山羊の角
蹄のついた足
蝙蝠のような翼
それよりも・・・・

「小僧、儂の勲章が気になるのか?」

そのバフォメットの全身に走る手術痕。高位の魔物である「バフォメット」を傷つけられるものはいない。

「真実の探求には犠牲が伴う。儂自身の身体も実験台の一つじゃよ」

手術痕を愛おしく撫でながらバフォメットが笑みを浮かべる。

「お前の弱点は知っているわ!」

ハイプリーストの少女が古めかしい革袋から何かを取り出そうとしていた。

「ほほぅ、水底の革袋か。お主たちを血祭りにあげた後にでもたっぷりと研究するかの」


― 水底の革袋 ―

海神の加護を受けた革袋で内部は海神の治める海と繋がっている。戦闘時にはセイレーンを召喚し、敵を眠らせることが可能。革袋から首だけ出すセイレーンはビジュアル的にかなりアレではあるが。


ノシ【オウムガイ】


頭足類に属する生き物であり、生きた化石との異名を持っている。
少女の手にあるそれを見た瞬間、そのバフォメットが飛び退く。

「なんじゃ!!!儂にそれを見せるな!近寄るな!!!!」

「海神の巫女が言う通り、やっぱりバフォメットのジルはオウムガイが弱点だったわ!」


オウムガイ「うぴ?」


少女が一歩一歩近づく。

「なんであんな生き物が存在するんじゃ!あの何も見ていない瞳!百本近くある触手!キモ過ぎるわ!!!!!」

「ホラホラ、早く女神の聖水を渡さないと・・・・」


オウムガイ「うぴうぴぴ!」 ウネ
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