「・・・であるからして最近は怪しげな占い師が問題になっている。早期に帰宅すること」
牛女は相変わらず女王のように教壇の上で振舞ってやがる。
念願の教師に成れていい気なもんだな、オイ。
それも今日で終わりだ。
教師らしい凛々しい姿の魔物娘、「白澤」の白沢明美を見つめながら、その心にケダモノを飼った風也は笑みを浮かべていた。
彼の手の中にあるもの、何の変哲もないありふれたスマートフォンだったがそこには見慣れない赤い一つ目のアプリが起動していた。
〜 明美・・・・、後悔させてやる!この俺を蔑んだ報いを受けろ!!! 〜
アプリの名前は「催眠調教アプリ」。
俺は自分で言うのもなんだが、それなりに成績も良い方だ。それは俺に勉強を教えてくれた「明美お姉ちゃん」のおかげだ。もっとも、あの牛女は自分が先公になるために俺を捨てたんだがな。
あの日、俺は見知らぬデーモンから一枚のデータカードを受け取った。どんな汚れた願いでも叶えることができると、そのデーモンは言っていた。俺は家に帰ると早速、アプリのインストールを開始始めた。両親はともに外地に居る。俺としては四六時中サカっている両親がいなくなってせいせいしている。いくら俺を生んで死んだ母がスケルトンになって戻ってきたといっても、朝から晩まで両親の喘ぎ声を聞かされる身にとってたまったもんじゃない。
「インストールに15分掛かるだと!」
物言わぬスマートフォンに怒りをぶつけてもインストール時間が早まるわけもなく、俺は椅子の上で静かに待っていることにした。ふと窓を見ると見慣れた赤い屋根の家が目についた。
「・・・・・・」
赤い屋根の下には、かつて「姉」と慕い今は憎くて憎くてたまらない明美がかつて住んでいた。
俺が物心ついた時には既に母はいなかった。母は俺を生んで直ぐに亡くなったらしい。うじゃうじゃと魔物娘がいる現在じゃ、こんなことは起こらなかったんだろうが俺が生まれた時に魔物娘はおらず、産科の医者でも助けることができなかった。ピルを飲んでも100パーセントの避妊ができないように、出産で命を落とす人間は少なくからずいる。小さな雑貨店を営んでいた親父は一人残された俺のためにその身を粉にして働いた。そんな時、「外地」から魔物娘が現れ、俺の住む地区でも魔物娘が越してくることも多くなった。俺は何処か他人事のように感じていたと思う。彼女達に対してたいして思うことはなく、同級生がアイツらの話をしても俺は適当に相槌を打っていた。そして俺は「彼女」に会った。
「キミが風也君ね。私は白沢明美。見ての通り、魔物よ」
赤いフレームの眼鏡をかけ、暖かなセーターにその乳牛のような乳房を押し込み、そのムチムチした肢体をブラックレザーのタイトスカートで包んだ女性が微笑む。
彼女は別世界、所謂「外地」から移住してきた魔物娘の「白澤」という種族で、牛の角と尻尾を持ち太腿から下に獣毛が生えてて蹄があった。この世界へは学術研究と教員免許を得るために来たとのことで、俺の親父が家政婦兼家庭教師として彼女を雇ったとのことだ。
その日から彼女との生活が始まった。
「風也君、今日の勉強はこれで終了です!頑張りましたね」
彼女の種族は白澤といい、非常に博識で俺のような捻くれた出来の悪いガキでもわかるまで教えてくれた。今でも思い出せる彼女がテストで満点を取ってきた時に見せたとびきりの笑顔。俺は彼女に母の面影を見ていたのだろう。学校で幼馴染を泣かせてしまったことや、おたふくかぜで寝込んだ俺を付きっ切りで看病してくれたこと。どれも大切な思い出だ。だが、物事には終わりというものがある。それは俺と明美との関係も例外ではなかった。
楽しい時間は過ぎていくものだ。たとえ嫌でも・・・・。
「明美お姉ちゃん家庭教師を辞めるって!!!!なんでだよ!!」
「うん。ごめんね風也君・・・・」
「どうしてだよ!!僕がお父さんに頼むから!!だから・・だから辞めないでよ・・・」
俺は泣いた。
泣いた。
泣いたってどうにもならないことはわかっている。
でも非力なガキだった俺はただただ泣くことしかできなかった。
「風也君、あまり我儘言わないの。私・・・・今度、私教育実習に地方へ行くの。そのあと教員試験を受けるつもりだから、今までのように風也君の先生ができなくなっちゃった・・・」
「そんな・・・・」
俺は明美が教師になるためにこの世界に来たのは知っていた。だからこそ、彼女の為にも駄々をこねてもどうにもならないことはわかっている。
「でも信じて欲しい。教師になれたらきっとこの街にもどってくるわ、絶対に」
そう言うと明美は俺を抱きしめてくれた。
明美のいなくなった彼女の家。いつものように呼び鈴を鳴らしたらひょっこり出てくるんじゃないかと思っ
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