チリン・・・・・・
彼岸が過ぎ、夏の暑さが和らいだ頃、妙齢の女性がその膝に少年の頭を乗せ、優しくその髪を撫でていた。
彼女の名前は「斎藤 千紘」。政財界に太いパイプを持つ斎藤家の次男である「斎藤 公介」に嫁いだ女性で、少年「斎藤 彰」を生んだというのに女性としての色香は些かも失っていなかった。
見る人が見れば、母親と息子の微笑ましい光景と思うだろう。
だが・・・・。
千紘の瞳には親子の愛とも違う仄暗い情念が渦巻いていた。
「この髪の肌触り・・・公彦様そっくりね・・」
彰の父親である「斎藤 公介」には双子の兄である「斎藤 公彦」がいた。しかし、彼は生まれつき病弱で14歳になる前に夭折してしまう。公介と幼馴染である千紘は大いに嘆き悲しんだ。そして二人は惹かれあい結婚し結ばれた。
公介は知らなかったのだ。
千紘がなぜ彼に「近づいたのか」を。
「双子ならDNAも同じ。生まれてきたこの子の髪も顔つきもみんな公彦様そっくり・・・。でも!」
千紘の手が彰の瞳に伸びる。
「眼よ!!眼だけが違うのよ!!!なんでアナタは公彦様と同じペリドットの瞳を持って生まれてこなかったのよ!!!」
彼女の願い、それは・・・・。
「まだ完全じゃないわ!!!!」
― 公彦の「双子」の弟である公介と交わり、自らの「息子」として夭折し想いを遂げられなかった「斎藤 公彦」の代用品を得る事 ―
「まぁいいわ。目の色くらい変える方法ならいくらでもあるもの。そうだ。いっそのこと目を・・・・」
彼女の悍ましい計画は実行に移されることはなかった。
数日後、彼女はタンクローリーの事故に巻き込まれ、遺骨すら残らずこの世から消えた。
しかし彼女はゴーストにもならなかった。
彼女は死んだことでようやく、公介と彰を裏切ってまで手に入れたかったモノを手に入れることができたのだから。
― 愚連隊「明るい家族計画」アジト ―
「・・・・お前が誘拐した彰くんを返せ」
黒い竜へと変わった若葉がアイシャに命令する。冷たく、その声に暖かさはなかった。
「それが落し物を拾ってくれた恩人に対する言葉かね?」
「返せ。二度は言わない」
そう言うと若葉はアイシャにナイフのように鋭い爪を向けた。
「言葉より暴力か。下品だな・・・・」
アイシャもその翼についた爪を若葉に向ける。
「アタシも下品なのは嫌いじゃないぜ!!!!」
二人の獣はぶつかり合った。
ドタドタ!!
「彰!大丈夫か!!!」
「あと若葉ちゃんも!!」
若葉に遅れて数分後、タロンとドーラが若葉に合流する。ワイバーンであるタロンとドーラが竜化したとはいえ、若葉に遅れをとることはないはずだった。
だが、タロンからアイシャの寝床を知った若葉は二人をその場において壁を窓ごと破壊して飛び立ったのだ。
「しかし竜化してその力を既に使いこなしているとは・・・・」
若葉が「学園」で戦闘訓練を積んでいるとはいえ、ホルスタウロスとドラゴンでは根本的な力の使い方が違う。
だが、若葉はドラゴンの持つ圧倒的な力に「慢心」することなく、アイシャの攻撃を受けていた。
バシッ!
アイシャの前蹴りが若葉に決まるが、ドラゴンの耐久力を持つ若葉には蚊に刺されたほどの痛みはない。
「やっぱり固てぇな!おい!」
彼女は若葉に掴まれる前に、蹴りの反発力を生かして高く飛ぶ。
― いい?若葉、ドラゴンというのは戦艦に例えられる。驚くほどの耐久性とブレスに代表される攻撃能力 ―
― 対してワイバーンは駆逐艦ないしは軽巡洋艦だ。スピードを生かした手数で相手を翻弄し、必殺の一撃を狙う ―
若葉の脳裏に「学園」の格闘教官であったサキュバスの「ナジャ・クロスロード」の教えが思い出される。
「コイツがアタシのとっておきだぁぁぁぁぁ!!!」
アイシャが天井高く飛びそのまま回転し、若葉の脳天に向かって両脚のかかとを振り下ろそうとしていた。
「ダブルハンマー!!」
ゴゴゴゴゴ!!!
「ふん!!!!!!」
アイシャの渾身の一撃は若葉の両腕で容易く受け止められてしまう。
不発。
しかし、それこそがアイシャの狙いだった。
「かかったなアホが!!」
すぐさまアイシャが翼を十字に組み魔力を波紋のように纏わせる。
「あれはヘッドの必殺技!稲妻十字空烈刃(サンダークロススプリットアタック)!!!」
「勝った!若葉のドラゴニア旅行記完!!」
いつの間に復活したのだろうか、ホリーとダリ―がアイシャに声援を送る。
「・・・・」
若葉が口を大きく開く。タロンが微かな空気の震えを感知した。
「いかん!!ドーラ!あとその他!!今すぐ耳を塞げ!!!!」
ギュォォォォォォォォォォォォ!!!!
洞窟住居の全てが震える。
竜の最大の武器であ
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