― 諸君、確かに魔物娘は本能に忠実だ ―
― 彼らは腹が減ったら食べ、眠りたくなったら眠る。まるで獣だ ―
― しかし彼らが人間の男を得たらその有様も大きく変わる ―
― 吾輩の伴侶であるデビルバグは出会った頃は知性のかけらもなかった ―
― だが、吾輩と契りを交わし彼女は変わった ―
― 必死になって吾輩の好きな料理を作ろうとし、右も左もわからないながらも必死に秘書の真似事をしている ―
― あの「デビルバグ」が、だ ―
― その健気な姿を見て吾輩は確信した ―
― 魔物娘は人間の男性という「理性」を得ることにより、「理性」と「本能」を兼ね備えたより高みの存在へと進化することを ―
― 「高みの存在」 ―
― そう、言うなれば「超人」である ―
マンコ・クンニスキー著「痴人はかく語れり」より抜粋
ヒュウォォォォォォォ・・・・・!
もう五月だというのに夜風はまだまだ肌を刺すように寒かった。服は辺りに脱ぎ捨てられ、今の私の姿はグリーンワーム特有の緑とベージュの素肌のみの姿だ。
「・・・・・・」
夫の健ちゃんは何も答えない。いつも私の好きなキャベツを沢山用意してくれる健ちゃん。口の周りにドレッシングがついていてもいつも拭いてくれる優しい健ちゃん・・・・。
でも
でもなんで何も答えてくれないの?
なんで私を・・・・
「あ・・あなた・・」
「・・・・聞きたくない」
沈黙が重く私に圧し掛かってきた。
そう
これは私の「罪」
本能のままに振舞った私への「罰」
自分の中の「獣」に喰われた私の罪だから・・・・・
「じゃあ行ってくるよメグ」
「健ちゃん行ってらっしゃい!!!お昼にはちゃんと帰ってきてね」
「ああちゃんと帰って来るよ」
そう言うと青年はメグと呼んだグリーンワームにキスをした。よほど嬉しかったのだろう、彼女の頭にある触角がピコピコと動いている。
青年の指には質素ながらも凝った意匠の施された指輪が嵌められ、グリーンワーム ― 指がないため爪の根本に合わせたサイズではあるが ― も同じ指輪を嵌めていた。
彼、「前園健一」とグリーンワームの「メグ」は農業研修生として健一の茸農場に来て以来の関係で、こと「食」に関しては何物にも負けないグリーンワームの「メグ」の舌のおかげで収穫される茸の品質は右肩上がり。それに伴い、健一とメグの関係も深まり二人は契りを交わしやがて夫婦となった。
「魔物娘」それも、種族としてまだまだ幼い彼女と結婚するとなると健一は周囲の反対もそれなりに覚悟したが、周囲はメグの性格もあって彼女を受け入れてくれた。もっとも、魔物娘を妻とする農家は意外と多いので彼らのような夫婦を色眼鏡で見ることなどあまりないのだが。
彼女と二人三脚で栽培している茸は大人気で、茸を置いている道の駅では毎日売り切れになるほどだ。
― 順風満帆 ―
二人は裕福ではないにしろ幸せだった。
しかし、健一は一つ不安があった。
それはグリーンワームという魔物の特性にあった。
通常、グリーンワームという種族は「成体」に羽化するための栄養を溜めると蛹となり、その上位種「パピヨン」へと変わる。
しかしながら、メグにその兆候は全く見られない。
決して栄養が足りないなんてことはない。健一はメグを餓えさせるようなことは一度たりともないのだ。
何らかのストレスが溜まってメグが体調不良を起こしているのかと思い、「学園」の魔物娘専門医の一人である「パオラ・クライン」先生にメグを診せたが、その結果は「問題なし」。彼女の話では「グリーンワーム」はそれが「精」を得るのに適した形態であると判断されれば、パピヨンへと羽化せずグリーンワームとして容姿が固定された事例もあると教えてくれた。
健一としては一応それで満足していたが、しかしメグに知らず知らず無理を強いているのではないかと考えることもあった。
彼は知らなかった。彼の妻であるメグが人知れず苦しんでいたことに・・・。
私の名前はメグ。
種族はグリーンワームで苗字はない。
私は「門の向こうの国」で沢山美味しいものを食べて、お姉ちゃんみたいな綺麗なパピヨンになるためにやってきた。
入学した「学園」の授業は難しかったけど、色んな人にも出会えたし「向こう」では食べたこともなかった色んな料理を食べることができた。
移住して一年後、農業研修生として訪れた茸農場で私は健一と出会った。
一目見て分かった
彼が私を「羽化」させてくれる「雄」だと・・・・。
でも私は「グリーンワーム」だ。
マンドラゴラやスライム種のように文字通り身を削って伴侶に奉仕することも出来なければ、稲荷や白蛇のようにおしとやかでもない。
強いて言うならばこの身体で彼の抱き枕替わりになるくらいだ。
私は学
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