― ドラゴニア郊外 ―
上質な大理石を使って作られた大広間。その中央には一組の男女の姿があった。
「ねぇ、あなた・・・・本当にいいの?」
傍らの青年は静かに頷く。
青年に語り掛ける女性の身体からは人間にはないはずの翼手種めいた翼が広がり、その四肢には爬虫類の鱗が衣服のように纏わりついていた。ショートカットにした深紅の髪がいいアクセントになっている。
彼女は人間ではない。魔物娘の「ドラゴン」という種族、人間を超える高い知性と一軍が束になっても敵わない強大な戦闘力を秘めた美しき魔物娘だ。通常、ドラゴンに代表される竜種の魔物娘はレアでかなりエンカウントが難しいものだが、ここ竜皇国ドラゴニアでは代表的な種族である。
その観点から彼女を見ると、目を引く赤い髪以外に特に変わったところのない、ドラゴニアではありふれたあくまで「普通」のドラゴンだ。しかし、数時間後彼ら夫婦は「伝説」― 当人たちにとっては災難ではあるが ― となった。
「クリム、君は美しいよ・・・・、どんな姿でもボクは君を愛する、絶対に!」
「じゃあ・・・いくわ」
青年の目の前でクリムと呼ばれたドラゴンが目を閉じるとそのシルエットが眩しい光に包まれていった。
さて、諸兄はドラゴンという種族に一体どのようなイメージを持っているだろうか?
傲慢で尊大で鼻もちならない?
一度怒るとてがつけられない暴君?
生きた厄災級の魔物?
諸君、それは「偏見」だ。特に、希少な竜種が多く生息する竜の楽園、この「ドラゴニア」においては。
武を極めるために竜騎士団に所属する生粋のドラゴンもいれば、チェーン店「ラブライド」などのレストランで平和なウェイトレスをしているドラゴンもいるくらいだ。皆、観光客に優しくドラゴニア観光に花を添える。彼、クリムの伴侶である長谷川蒼佑も元はと言えば「門の向こうの国」からドラゴニアへ観光に来た観光客だった。
「外地」においてドラゴニアは比較的平和な土地だ。しかし、ドラゴニアを観光する上で守らなければならないことがいくつかある。特に、名物料理の一つであるドラゴンステーキを頼む際に決して「ドラゴンを喰わしてくれ」と言わないこと。これは出版されている各種ガイドブックにおいても必ず明記されている。なぜならばこのワードは独身のドラゴン達にとってベッドへのお誘いに他ならない。彼もそのちょっとした「ミス」でクリムと出会い、文字通り「ドラゴンを喰う」ことになったのだ。もっとも、クリムの容姿は彼にとってはどストライクだったらしく、三日三晩ドラゴンを「お代わり」していたが。
余りの眩しさに蒼佑は目を瞑る。
「あなた・・・・もう目を開けてもいいわ」
蒼佑が目を開くと、全長三メートルを超える「原種」のドラゴンが彼を見下ろしていた。
「怖い、かしら?」
目の前のドラゴン、クリムが口を開く。口の中は鑢のように鋭い牙が生えている。噛みつかれたら最後、ただ口を閉じるだけで磨り潰されるだろう。それこそ、痛みなど感じる暇もなく。恐怖を感じても無理からぬことだ。
ドラゴンの持つ強大な魔力は魔王の代替わりで例外なく魔物娘へと変わってしまった現代において、あくまで一時的だが前魔王時代の姿をとることができる。とは言え、その精神まで前魔王時代に変わったわけではない。人を傷つけることを禁忌としていることは変わっていなかった。
「クリム・・・・」
蒼佑はクリムを抱きしめた、否、その身長差から蒼佑がクリムにしがみついていると形容した方がいいだろう。変温動物である爬虫類独特のひんやりとした体温が彼の全身を包み込む。
彼は決して爬虫類マニアではない。ただ純真にクリムを愛している。この奇行も愛故の行動だった。
夫婦の交わりはいつも「人間体」となったクリムとしている。彼女の肢体はドラゴンらしく、引き締まっているがそれは決して硬いというわけではなく、女性相応の柔らかさを兼ね添えていた。いくら抱いても、いくら彼女の子宮に精を放とうとも蒼佑は彼女に飽きることはない。だが、繊細な彼は気付いてしまった。
― 自分は「人間体」をとったクリムだけを愛しているのではないか? ―
こんなことを他の魔物夫婦に相談しても笑われるだけだ。君は彼女を愛していないのか?、と。人間体だろうがドラゴン形態だろうが、愛する妻であることに変わりはないのだから。
だが、自分の中に生まれた疑念はどうやっても晴れなかった。答えを知ること方法はとうにわかっている。後は、それを妻に話して協力を仰ぐだけ。
「その・・・なんと言っていいのかわからないけど・・。ドラゴンになってもクリムはクリムなんだって思うよ」
「あなた嬉しい!!」
ギリギリッ!
「ちょwwwww、締まってるwww」
彼の身体をドラゴンが抱きしめる。全身の骨が
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