「彼女」の帰還 〜 艦これより 〜

最初、人類が「ソレ」を見つけた時はただの変異した水生生物と思っただけだった。往々にしてそういうものは、大概はホルマリン漬けにされてどこどこの研究室の標本室に置かれ忘れられるのがオチだ。
だからこそ人類は「見逃してしまった」。
これが後に、「駆逐艦イ級」と呼称されるものの幼生体であることをこの時は誰も知らなかったのだ。



ザザー・・・・

私は海面に浮かんでいた。
艤装は既に力を失い、私がパージしなければ今頃一昔前のマフィア映画に出てくる三下のように青ざめた顔をして海底で棒立ちになっていただろう。
今は辛うじて生きているが、それもあと数刻で終わる。

流された血で呼び寄せられた鮫に肉体を引き裂かれる?

力尽きて海中に沈む?

どちらにしても死ぬことは変わらない。こういう場合、自決用の拳銃や致死錠剤がないことが悔やまれる。

「提督・・・・・」

出撃の前夜の情事が蘇る。提督は私と身を重ねるのを拒んだ。それもそうだ。私は人ではあるが同時に「兵器」だ。いつ死んでもおかしくはない。でも私は提督との消えない絆を望んだ。たとえ、この身が海の泡になろうともこの想いは消えないのだから。

「貴方それでもいいのかしら?」

「誰!」

私が辛うじて動く首を声のした方向に向ける。

白い髪

赤い瞳

黒いドレスのようにも煽情的なビキニにも見える衣服

それはまるで・・・

「深海棲艦!!!!」


― 深海棲艦 ―

数年前に現れた未確認生物の総称だ。
その形態は駆逐イ級のような水生生物のようなものから、重巡リ級や戦艦ル級といった比較的人間に近いものまで様々だが、一様に人間と対話する意思はなく、ただただ海に出た人間を殲滅することを目的としていた。近年は、「姫級」や「鬼級」といった指揮官クラスの存在も確認されている。
彼らによってシーレーンを失った人類は人間をベースにした兵器である「海上歩兵」、通称「艦娘」を生み出した。「船霊」と呼ばれる、一種のエネルギー体を封じた「艤装」を適正のある人間に与えることにより生み出される彼女達「艦娘」の活躍により、日本は餓死者も出さず国家としての命脈を保っていた。


ギリッ!

「おお怖い怖い。でも私は深海棲艦じゃないわ、魔王が娘の一人リリムのラヴィベル。綺麗な顔が台無しよ?扶桑」

目の前の姫級から飛び出した艦娘としての名前に彼女の目が開かれる。

「時間が足りないわ。いい?一度しか言わないわ。扶桑、貴方は再び提督に逢いたくない?」

「私は・・・・・」



姉様が沈んだ。
姉様と言っても私と血縁関係などない。ただ私が適応した船霊の姉妹艦というだけだ。
今の時代、学がなく、コネもない女の行く先は見知らぬ相手に身体を許す売春婦か、艤装を背負って訳の分からない敵と戦う艦娘となるくらいしかない。
幸いにも私には戦艦種の適正があったおかげで艦娘となることができた。
別れを告げる友もなく、精一杯親らしく振舞う母の姿に私は幻滅した。見知らぬ男の種で孕んだ娘が「高値」で売れたんだ、母は喜びを隠しきれていない。私はそんな母も、故郷も捨ててこの鎮守府に来たのだ。

「貴方が山城ね。私が扶桑型一番艦、扶桑よ」

その時灰色だった世界が色づいたように私は感じた。
気が付くと私は誰かに強制されることなしに彼女を姉様と呼ぶようになっていた。
姉様は鎮守府の誰よりも強く、改二と呼ばれる強化処置を受けるのも誰よりも早かった。鎮守府最強の戦艦と呼ばれても姉様はそれを鼻にかけることすらなく、姉様は姉様としてあり続けた。そして姉様は提督と恋仲になった・・・・。
私としては扶桑姉様を盗られたように感じていたが、幸せそうな姉様を見ているとそんな後ろ暗い感情は消えうせた。

なのに・・・・

なのに!!!!!

姉様は僚艦を守るために盾になり、そのまま囮として海域に残って・・・・。
私は提督を詰った。なぜ扶桑姉様をあの海域に出したのか、他の戦艦はいなかったのかと。

・・・・わかっている

所詮あの時、空母ヲ級が潜んでいたなんて誰にも予測なんてつかなかった。でも・・・私はそうでもしなければ自分を保てなかった。
提督は反論せず、私の罵詈雑言を黙って聞いていた。そして、三日間行方不明になった・・・。
表向きは大本営に呼び出されたことになってはいるが、当日そのような予定は入っていない。
そして、三日後提督は一人の艦娘と一緒に鎮守府へと戻った。

「貴方が山城ね。私が扶桑型一番艦、扶桑よ」

沈んだ姉様と違う姉様と・・・。



「どうしたの?ぼぅとして・・・・」

僚艦である軽巡五十鈴が心配そうな顔で私を見ていた。

「ああ・・・少し考え事をしていて・・」

「扶桑さんのことで色々と悩んでるのはわかるけど、今は掃海任務に集中しなきゃ!終わったら酒くら
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