― 在ドラゴニア、ドラン人魔共国大使館 ―
数年前、中立国であったドラン国は存亡の危機に立たされていた。長く続く飢饉、辛うじて餓死者は出ていなかったがそれも時間の問題であった。国の中枢は何度も教団に支援を要請したが、戦時である事を理由に断られていた。そんな時に手を差し伸べたのが魔物娘達だ。彼らが持ち込んだマカイモや精霊使いによる土壌改良により、国難は避けられたと思えた矢先、教団に魔物娘達に支援を受けたことが知られてしまった。教団は属する聖職者であるギデオン・ビューレンが魔物と通じているとし、引き渡さなければ軍を差し向けると脅して来た。
「支援も寄越さずに軍を差し向けるとは!」
人魔問わずに憤慨したが教団の軍事力に対抗する術はなく、断腸の思いでギデオンを差し出した。処刑の寸前で彼の伴侶であるショゴスのニナが助けに呼んだドラゴニア竜騎士団により教団軍は壊滅、おまけにドランを侵略するために教団が用意していた別動隊の存在が特殊工兵隊の活躍により明らかになった。もう中立国にこだわる必要はない。親魔国へと生まれ変わったドランはこうしてドラゴニアに大使館を構える様にまでなったのだ。
「・・・・・・」
瀟洒な大使館の二階。脱走兵クーラ・アイエクセルは物陰に身を隠しながら眼下を見る。幸い、空に哨戒するワイバーンはいなかったが、しかし眼下には明らかに堅気には見えない連中が一般人のフリをして大使館前に陣取っている。
「ったく、アタシも舐められたモンだな。ハロウィンの仮装行列はとっくに終わってんだろ」
クーラがそう呟いた時だ。
ガチャッ!
豪華な彫刻の施されたドアが開いて、鉄灰色の髪をした長身の男性とメイド姿のショゴスが部屋に入ってきた。
「元気そうだなクーラ」
「大使様とは、アンタもちょっと見ない間に偉くなったもんだな、ギデオン」
「私は引き受けるつもりはなかったのだけどね」
あの日、クーラと彼女が率いるドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊の活躍により九死に一生を得たギデオンは、伴侶であるショゴスのニナと共に親魔国へと変わったドランの全権大使として、ドラゴニアに赴任している。
「ドラゴニア竜騎士団からの引き渡し要請は?」
「今のところないね。ココは曲りなりにも大使館だ、たかが騎士団が国を相手取るにはもう少し時間が必要だろう」
グゥ〜〜〜
「すまねぇ・・・。朝から何も食べてなくて」
「問題ないよ。ニナ、サンドイッチと紅茶を頼むよ」
ギデオンがそう言うと、ニナがその場を後にした。
「・・・・・何があったか教えてくれないかい?」
「いいが・・・・聞いていて気持ちのいいもんじゃないぜ?」
ギデオンが静かに頷く。
「なぁギデオン、悪食竜の話って知ってっか?」
「ああ・・・私が幼い頃に母からよく怖がらせられたもんだよ。お残ししたら悪食竜に骨まで食べられるって。でもそれはあくまで御伽噺だろ?」
「ギデオン・・・あれは御伽噺じゃないんだ」
クーラが一呼吸置く。
「魔王の代替わりが起こるまで魔物はあくまで人間を食料としてしか見てなかったらしい。それはドラゴンとて同じだった・・・」
― 悪食竜バニカの話 ―
あるところに魔物に襲われた村があった。
母も父も魔物に喰われた哀れな少年。彼を救ったのは赤いドラゴンだった。
ドラゴンは少年を遠くの山に連れて行った。
そこには少年同様、ドラゴンに連れてこられた見知らぬ少女がいた。
少女は母から教えられたとおりに畑を作り、少年は父に教わった通りに家畜を飼育し山で生活を始めた。
やがて少女も少年も成熟し子を成すまでになり、畑も彼らが食べきれないほど作物が実をつけ家畜も増え牧場といえるまでになった。
その日は何気ない、いつもの日と変わらなかった。
耳を劈く風の音。
あの日彼らを助けた赤いドラゴンが再び山に降り立った。
かつて少年と少女であった男と女は無邪気にドラゴンが自分達を祝福しに来てくれたと思った。
赤いドラゴンが去ると・・・・。
男が丹精込めて世話していた牛や豚、鶏は姿を消し、女が我が子のように育てていた作物は根こそぎ取りつくされ、そして男と女、彼らの子供たちは何処にもいなかった。
「こいつはかつてのドラゲイ帝国で教訓めいて話されていた寓話だ。決して竜に心を許してはいけないという戒めのな」
「そんな謂われがあったのか・・・」
「ああ。かつてこのバニカはドラゲイ帝国に攻め込んだらしい。記録によるとその時の竜騎士団の精鋭が全滅寸前になりつつもバニカの左腕と右目をもぎ取って撃退したらしい。それだけならただの記録だ。しかし、一攫千金を狙う山師が地下で眠るドラゴンゾンビになったバニカを見つけちまった。ドラゴニアに保管されていた記録通り、バニカの左手はなく
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