毒猿と彼の伴侶であるフェアリーが夫婦の契りを交わす中、棺桶に閉じ込められたワイバーンのクーラは夢を見ていた。自身の過去を・・・。
思えばアタシの人生は誰よりも速く飛ぶことに固執していたのかもしれない。
アタシのおかんは竜騎士団の団員として日々ドラゴニアの空を守る傍ら、競竜の選手として活躍していた。「競竜」ってのはケンタウロスがやってる競馬のドラゴニアバージョンで、体重や身長年齢の同じ竜同士が一列に並んで飛ぶレースだ。因みに競竜ではジョッキーはいない。居たらいたでレースの熱で興奮した選手がレースそっちのけでおっぱじめちまうからな。おかんはそのスタートダッシュの速さから「トレビシェット」(投石器)のカレンと呼ばれてたっけ。そんな有名選手の娘であるアタシ、「クーラ・アイエクセル」も空を飛べるようになってから直ぐにレースに出るようになった。自慢じゃないがジュニアクラスでは負けなしだったんだぜ?
やがてアタシもおかんやおとんと同じようにドラゴニア竜騎士団に所属した。
いやぁ、騎士団長には扱かれたよ。同期の仲間は、騎士団長は恋人がいないから訓練で発散しているって噂していたっけな・・・。
竜騎士団を背景にした強力な軍事国家だった大昔とは違い、竜騎士団は存続しているがドラゴニアの主産業は観光だ。そのおかげで、アタシ達新人の任務の一つには「観光ガイド」ってのがある。人間が言うには魔物の中でも竜ってのは遭遇するのが難しい種族なんだそうだ。だからなのか、ドラゴニアに観光に来る連中も多い。親魔国の抱える問題として深刻な男不足が挙げられる。
そりゃそうだな。
人間と魔物がヤってガキを孕んじまったら例外なく魔物のガキが生まれちまう。そうしていくうちに国に人間の男が少なくなっていくってワケ。王魔界からはいずれ魔物からインキュバスが生まれるようになるっていつも言ってるが、それがいつになるかなんて誰にもわからない。アタシはそんなんでもないが、魔物の男日照りはかなりひどいらしい。それこそ伴侶を得るためにドラゴニア竜騎士団から魔王軍に鞍替えする連中が一定数いるくらいだ。ドラゴニアは解決法として、観光客を呼び込んでヤツらに無料の観光ガイドを当てがってやり、そのまま定住してもらうことを選んだ。
タダで若くて美しく、そんでもってレアな竜種のガイドが手取り足取り観光ガイドをやってくれるんだぜ。それでガイドに手を出さないってんなら、ソイツは間違いなくホモか不能だ。実際に任務についていた同僚が翌週、元観光客の竜騎士と一緒に訓練所にいることも多かったけな。
アタシはそうだな・・・・。あんまり男にガツガツしてなかったな。
実際、国からは未婚の魔物の為に精補給剤が支給されていたし。少なくともそれを補給すればそんなにも男が欲しいって ― あくまでアタシはだけど ― 思わなかった。同僚にも言われたっけ、アンタは空を飛ぶことで性欲を発散してるって。まぁ、当たってたんだろ。実際、オナニーで絶頂を迎えても熱が冷めれば空しくなるだけだが、ドラゴニアの空を息が続くまで飛び続けたときの恍惚感はなかなか消えない。思えばランナーズハイってやつだな、あれは。
そんなこんなで私はいつの間にか竜騎士団でも古株の一人に数えられていた。ドラゴニアでも魔王軍でも隊長職についている奴は男に興味がない変人か、フリーであるが故に貧乏くじを引かされて押し付けられるパターンが多い。つまりはアタシもそうだったわけだ。
― ドラゴニア竜騎士団特殊工兵隊 ―
敵の防御の届かない高高度から侵入し、奴らの鼻先に魔界銀の散弾を込めた対人爆雷をプレゼントする命無用の切り込み隊。いくら教団の奴らが腕のいい魔導士を用意しても成層圏近くからの急降下を止められるはずがない。戦場の花形さ。もっとも伴侶を危険に晒す可能性のある急降下爆撃を行う必要のある特殊工兵隊は必然的に独り身ばかりになる。まぁ作戦の都合上、狙撃兵として男が一人だけいるのだがな。しかし、口の悪い奴からは「行き遅れ部隊」とか、「貴腐人隊」しまいには「空飛ぶ百合畑」など言われることはあった。もっともそんなことを言った奴はアタシが〆てやったが。
本当充実していたな・・・・。
「ジギー」、「タロン」、「ドーラ」、そして「アーシア」、・・・・「セシル」。
コイツらはアタシの背中を預けられる無敵の仲間たちだ。戦場で暴れまくって、終わったら酒場で痛飲して仲良く二日酔いってのがアタシ達の日常、だった・・・・。
「私は悲しい!我が同胞ともいえる聖職者が堕落していたとは!」
中立国「ドラン」
その郊外に、物々しい櫓が立っていた。
その下で身なりのいい男が大声を張り上げていた。身に着けた法衣から教団の、それなりに高い地位についていることは容易に推測できた。
男の前
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