惚れたが悪いか ― カーテンコール ―

〜 あ、あれ・・・?確か意識を失って・・・ 〜

気が付くと僕は気を失う前まで座っていたダイニングの椅子に腰かけていた。
目の前には岬。
彼女は恋人である深見の友人で・・・僕に誘いをかけた「サキュバス」だ。

〜 ?! もしかして・・・夢の中なのか・・・? 〜

僕がこの状況を理解しようと努めていた時だ。

〜 ?! 止めろ・・・・! 〜


あろうことか、夢の中の僕は彼女の肩を掴むとその細い肢体を引き寄せその薔薇色の唇に自らの唇を重ねた。

〜 止めろ!!止めるんだ!! 〜

いくら僕が叫んでも「僕」は彼女の口内を貪ることを止めず、そのままダイニングの床に彼女を押し倒す。
岬は強引なその行為にも目立った抵抗することなく受け入れ、自ら革パンのボタンを下ろし見せつけるようにゆっくりとジッパーを下げた。
煽情的なエナメルのブラとお揃いの黒のエナメルショーツが露わになる。
吸水性の無いエナメルショーツは彼女の奥底から溢れる蜜を内に留めることなく、その隙間から止めどなく滴らせていた。
「僕」はその痴態に満足そうな笑みを浮かべると、履いていたジーンズのジッパーを下ろし蠱惑的な彼女に覆いかぶさり・・・・



「止めろ!!!止めてくれぇぇぇぇ!!!」

僕が叫びながら目覚めると、そこはいつものベッドルームだ。
傍らを見てみるが件の岬はいない。

「夢・・・だったのか」

ふと、僕は下半身に違和感を感じた。

「うわっ・・・・・」

見てみると僕は久方ぶりの「夢精」をしていた。
官能的な女性との交わりを夢で見て夢精してしまうのは男性の生理現象として普通のことだ。
しかし、僕は夢の内容が内容だけに、それが深見に隠れて不貞を働いたかのように罪悪感を感じてしまっていた。
リュウが知らないだけで岬が言う通り魔物にとってあれくらいは挨拶替わりなのだろう、そう自分を強引に納得させると汚れてしまったパンツを履き替えダイニングへと向かう。
食卓の上にはフレンチトーストのホットサンドといえるクロックムッシュと傍らに置かれたポットの中には丁寧にドリップされたコーヒーがなみなみと淹れられていた。
「食」に拘りを持っている深見が作っておいてくれたであろう豪勢な朝食を食べる。
食卓に深見の姿はない。
一緒に置かれていた書き置きによると、ゲイ雑誌の連載に使う資料のために「学園」の資料館へ取材行ったとある。
帰りは22時くらいと書かれていた。
正直、「助かった」と思った。
昨夜岬との一件があったため、深見と顔を合わせるのに抵抗があったからだ。
今は気持ちを落ち着かせることに集中することだ。

プルルッ!

僕のスマートフォンが震える。
着信番号は・・・・「真中岬」。
取るべきか否か、しばし考えるが僕はその電話を取った。

「・・・・・島崎です」

「フフフ・・・その様子だと大分参っているようだね?」

「切りますよ」

「どうぞ?でもそうしたら君は深見を永遠に失うかもしれないけど、いいね?」

「どういうことだ!」

「そのままさ。アンタ、深見の婚約者のことを知りたくないのかい?」

「知ってる・・・のか?」

「リュウ焦る気持ちはわかるけど、クールにクールにだよ。昼の12時、メイド喫茶のクラウディアに来てくれないか?そこで話をしよう。心配はいらないよ?いくら魔物と言っても盛りのついた犬じゃないし、いきなり犯したりはしないさ」

「分かった。クラウディアだな?」

「聞き分けのいいコは好きだよ、貪り尽くしたいくらいにね。そうだ、一つイイことを教えてあげようか?」

「何を企んでる?」

「別に。いいコへのご褒美だよ」

「・・・・・・何だ」

「深見の仕事部屋。その奥のクローゼットの中を見てごらん。半年も同棲しているアンタにはそこに何があるか分かってるだろう?」

「・・・・・・」

僕は無言で電話を切り、深見の仕事部屋へと向かった。
乱雑な部屋。時折目に入る、参考資料用であろうガチムチ爺さんの男同士の絡みを映した写真を払いのけながら進むと、僕は目的の物を見つけた。
一番奥にあるマホガニ―で作られた重厚なクローゼット。
確かめてみるが扉に鍵はかかっていないようだ。
僕はその取っ手に手をかけ一気に開いた。

ガチャ・・・

「?!・・・そんな!嘘だろ・・・・!」

僕は目を疑った。
高価な装身具と一緒に収められていたはずの彼女の「ドレス」が無くなっていた・・・・。



メイド喫茶「クラウディア」
その奥まったボックス席。
二人の男女が向い合せに座っている。
岬とリョウだ。

「・・・・・・」

「アタシの奢りさ。冷えないうちに食べなよ?」

今、彼の目の前にあるのはペンネ・アラビアータ。
確かに彼の好物だが、手を付ける気にはなれなかった。
深見の明確な「裏切り」。
レス
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