私の王子様 ― ガールズビーアンビシャス ―

私が直人様と出会ったのは、私を育ててくれた保護者がいなくなってこの家に引き取られた時だ。
知らない人の家、知らない人達。
いつも変わった形の美味しい果物をくれる角の生えた女の人や、事あるごとに女の人にのしかかられて苦しそうな声をあげている男の人もいない。
私は怖くなってしまった。
でも・・・・
直人様はそんな私を抱きしめてくださった。

― 怖くないよ・・・ベル・・・ ―

生まれて初めて感じた殿方のぬくもり。
「ありがとう」その一言すら言えぬ自分の舌が恨めしい。
その時からだろう。
私は彼を「王子様」と呼び、貴人に付き従う臣下として恥ずかしくないように振舞うようになったのは。
「王子様」こと、神薙直人様は私のような下賤な者と一緒に食事をし、汚れた身体を手ずから清めてくださった。
私は彼の寵愛に答えようと、寒い夜は寝所に潜り込んでこの身で彼を温めた。
彼はいずれ何処かの家の姫を娶るだろう。
それでいい。
これ以上の幸せを望んではいけない。
彼と「番いたい」などと思ってはいけない。
そのはず・・・・だった。

「ひやぁ・・・・!やめて!ベルそこは汚いよぉ!!!」

その夜、私は臣下としてあるまじき行為をしてしまった。
直人様のソコから漂う甘い匂い。
その甘い匂いは私を育ててくださった保護者が時折くれた変わった形の果物にも似て、私は直人様のソレを舌で愛撫した。
濃厚な甘さが私を蕩けさせる。
直人様が私から身を引こうするのをより深く咥えることで止め、さらに愛撫を施す。
ソレは私の口の中で膨らみ、その穂先から飛び出したドロドロとした滴りが喉を潤した瞬間、私は恥ずかしながら生まれて初めて達してしまった。

― 彼の「メス」として番いたい ―

本当はそのまま彼と番いたかったが、それは許されぬ罪だ。
それ以上は自重した。
その夜以降、私と彼の関係は変わらなく日常が過ぎていく。
直人様の父が見知らぬ「オス」を家に連れてくるまで・・・・。


― だから何言ってる!!!あれは・・・・・・ ―

遠くで女の人が言い争う声が聞こえる。

〜 そうだ・・・私は・・・ 〜

王子を水の中へ引きずり込もうとする奸賊。
私は身の危険を顧みず、その奸賊に体当たりをかけた。
歯や爪を使う方法もあるだろうが、何故か傷つける気にはなれなかった。
何とか直人様を助け出せたが、その時に毒を受けてしまったらしい。
呻き声さえ出せない。

「あれは犬だろう!!!!!」

「ええそうね。どうみてもゴールデンレトリバーのメスね」

麻痺毒の影響で河原に横たわる「ベル」、誰が見てもそれは見事な毛並みのゴールデンレトリバーだ。

「ならなんで邪魔する・・・・!」

「だから貴方はダメなのよ。よく見なさい、ごめんなさい言い方が悪かったわね。彼女の魔力の流れを見てみなさい」

「そんなこと」

「いいから見ろ・・・二度は言わないわよ?」

グランマが目の前のサハギンに命令する。
その赤い瞳に浮かぶのは純粋な怒り。
その怒りに晒されたサハギンは恐る恐る「ベル」と呼ばれている、そのゴールデンレトリバーの魔力を見る。

「嘘・・・・なんで魔力が・・・どう見てもただの犬なのに。まさか動物の姿に変化して・・・」

「その答えでは落第点よ。高位の魔物が動物の姿を取ることもある。ネコマタなんかはわざわざ猫の姿をとって人間の中に潜り込むことがあるわ。その場合は、動物の体に無理矢理一人分の魔力を押し込んだみたいになるから直ぐにわかる」

「じゃあなんで・・・・?」

「考えられるのは、子犬の頃から魔力に満ちた空間で育てられたか、魔力を含んだ食品を長期間食べていたかその両方か・・・。答えは当人に聞いてみないとわからないわ」

― 魔力 ―

魔界ではかなりの量が空中に漂い、高濃度のソレを受け続けた人間は望む望まないに関わらず魔物化を引き起こしてしまう。
魔力は植物や動物にも影響することが知られ、それらが魔物化した事例もある。

「・・・おねえ・・さん・・ベルを助けて・・」

「無理にしゃべらなくていいわ」

「ボクは直人・・・お願いで・・す。ベルを・・・」

グランマは胸元から青い色の液体に満たされた試験管を取り出し、直人に握らせる。

「彼女のことは私に任せて。これは解毒作用のあるウィンディーネの天然水よ。これを飲み干せばすぐに動けるようになるわ。貴方は自分のことを考えなさい」

直人は渾身の力を振り絞ると、歯でコルク栓を抜き喉に流し込む。
ほのかに甘い液体が体内の毒を中和していく。
身動きできない直人は彼女がベルのところへ行くのを見つめるしかできなかった。


〜 この人もあの奸賊の仲間? 〜

私は歯を剥きだして威嚇する。

「そう睨まないでいいわ。私は敵じゃないわよ。むしろ・・・貴方の願いを叶
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