ハイ〇エース ― ドナドナ ―

木曜 うららかな午後

「でね、彰くんったらその夜はすごくて!」

若葉は馴染みの精肉店の店先で店主と惚気話をしていた。
事の始まりは店主の「肉山俵」が若葉の指に光る見慣れない指輪について尋ねたからだ。
そしたら、あれよあれよという間に惚気話に突入したというわけだ。
豊満な肢体をくねらせ身振り手振りで実況を始めた若葉に肉山はこう思った。

〜 リア充爆発しろ 〜 と。

「肉山」というあり得ない苗字から容易にわかるが、彼女は元々この世界で生まれ育ったわけではない。
魔界という「外地」出身のオークという種族だ。
丸みを帯びた身体にホルスタウロスほどではないにしろ中々の巨乳。
可愛げのある顔であるが、徒党を組んでの乱暴狼藉を好み、底なしの性欲を持つオークは「外地」では嫌われる種族の一つだ。
彼女も例に漏れず山賊団の頭をしていた。
その生来の戦闘力の高さ故、魔王軍の傭兵をしていたことさえある。
しかし山賊暮らしの中、部下や友達が次々と婿をゲットして結婚していく姿に彼女の焦りは強くなる。
彼女が今更真っ当な手段で婿を手に入れることなんて夢のまた夢。
そして知った門の向こうの「別世界」。
そこでは彼女のような札付きの魔物娘でも愛してくれる人がいるかもしれない。
彼女はありったけの金をかき集めこの世界に渡り、かつてのツテで魔界豚やドラゴニア特産の魔界蜥蜴の肉を扱う精肉店をオープンし3年。
店は軌道に乗り常連もついた。
だが・・・・彼女が真に望む出会いは一向になかった。
自慢ではないが、それなりに稼いでいるしこの世界を知るための「学園」で学んだ家事スキルは今も錆びついていない。
とはいえ合コンに出ても「かわいい」とか「家庭的」と言葉をかけてくれる男性はいるにはいるが、赤鬼やラミアといった種族に彼らをお持ち帰りされるのも一度や二度ではないのだ。
おかげで自らの性欲を満足させるため店の二階の肉山の自室にはバイブやローター、ナニに使うかわからない魔界銀製のペニスバンドといったエログッズがひしめいていた。
最早、バイブが恋人と言っても過言ではなかった。

「あーわかったわかったよ!ああ、なんでアタイには旦那さんや肉バイブがいないンだよ!チクショォォォォォォォ!!!」

肉山の魂の叫びが通りに響く。
その時だった。

「!」

若葉が何事かを感じ取る。

「ねぇ・・・・私が男を紹介できると言ったら、どうする?」

「そりゃあねぇ・・・あそこにある魔界豚の生ハム枝木一本とパンチェッタを半額で・・」

「半額ぅ?」

「わったよ!!!全部タダでいいよ!!」

「取引成立ね」

もし彰が見ていたらドン引きするであろう、笑みを浮かべる若葉。
数多の鉄火場や修羅場を潜り抜けてきた肉山とてその笑みには怖気を覚えた。



〜 やっと出たか・・・・クソ長話をしてんじゃねーよ!! 〜

肉山精肉店から若葉が出たのを見て愛車ハイエースで一人の男が悪態をついていた。
彼の名は「新河教二」。
父は個人病院の医師で、彼もまた医大への進学を期待されていた。
しかし二浪したばかりか、彼の弟が医大へと進学したおかげでとうとう親にも見放された。
リアルに絶望した彼が縋り付いたのはゲームだった。
親の財力を傘に廃課金プレイ。助けてくれる友人もなくただただ孤独な日々。そして手に入れた「嫁」、ホルスタウロスの戦士「シノ」。
彼が歪んだ憧憬を現実の魔物娘に向けるのに時間はかからなかった。
だったら魔物娘のいるソープにでも行けばいいと思うが、彼は偏食で牛乳は一切飲まない。愛する魔物娘と共に人生を歩むわけでもなく、ただただホルスタウロスの熟れた肉体を蹂躙したいとしか考えていない外道。
そんな彼が目をつけたのが目の前の彼女だ。
街で彼女を見て以来、彼は彼女を手に入れる算段を始めた。
彼女「若葉」が木曜日の午後、この精肉店で揚げたてのコロッケを買うことは探偵を使って把握済み。
彼好みの肢体をしているのも大きいが、何よりも人妻というのがいい。
人妻ならレイプされたとしても家庭や夫との関係を守るため、被害届を出すこともないはずだ。
数回中出ししておけば猶更事を荒立てないだろう。
彼が手にした薬瓶を見る。ラベルには「ジエチルエーテル」。
もはや人としての倫理観はなく、ただただ自らの浅ましい欲望を満足させることしか彼は考えていなかった。

コツコツ

「女」が彼の潜んだハイエースに近づく。

あともう少し・・・。

コツコツ

今だ!

新河がハイエースの荷台から飛び出し若葉の口にエーテルを染み込ませたナプキンをあてる。
突然の事で若葉が暴れるが、直ににぐったりと力が抜ける。
そしてそのままハイエースに引き込み彼女に手錠をかける。無論、ボールギャグを噛ませることと目隠しをすることも忘れない。

― これで
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