03:カルナ

 お初にお目にかかる。

 私はシアン・アルガンシア。

 今のところは、物語の前説の立ち位置にいる。

 諸君が私の正体を何と捉えるだろう。人間か?だとすれば男か?それとも女か?違うとすれば魔物か?あるいはインキュバスか?それらどれとも括られない別生物か?はたまた事前に録られた録音装置から発せられる台詞か?

 何だっていいだろう。

 さて、私はこれから諸君にこれまでの物語を説明する役割を遂げねばならない。



 のどかで小さな農村で暮らすネーテル・ログフォーツは、ある日落ちていた魔導書を拾い、彼の持つ好奇心のままに魔導書の内容を再現する。どんな魔物を喚ぼうか特に考えもせず術を発動させた結果、パートナーとなるサキュバスのカルナを喚び出したわけだ。



 諸君らは考えたろう……《なぜ農村に暮らす村人Aだった彼は必要も無いのに使い魔候補を召喚しようなどと考えたのか?》《なぜ彼は魔導書を拾ったのか?》そしてそもそも、《なぜのどかで小さな農村に召喚魔導書が落ちていたのか?》。

 答えになっていないと言われてしまうだろうが、答えは、いずれ分かる。なぜなら私は前説だから。答えを言うことは許されない。

 続いてネーテル・ログフォーツという青年についてだ。


 年齢は16。身長は163センチ。体重48キロ。誕生日は6月14日。両親健在だが遠く離れたところに暮らしている。兄弟姉妹はいない一人っ子。魔法の才能は小さい頃から光っていたわけではなく、むしろ無能といってもいい。それを除いて能力は全て平々凡々。唯一飛び抜けていたのは好奇心のみで、その好奇心によってトラブルが起きることしばしば。性格は素直で月並みの善人。新魔王の時代に産まれているため魔物に対する警戒心・恐怖心は無し。恋人、特に無し。



 要約すると普通ということだ。物語の主人公なんてこんなものだろう。

 では、そろそろ私は引っ込んで本編を始めるとしよう。私の平坦でつまらない話を終わらそう。

 閑話休題。

 そうそう。私の正体についてだが……

 ま、いずれ分かるということだ。










「メルキュラ・ベクラ。私の名であり、魔法使い」



 サルマリア魔法学園生徒会長メルキュラ・ベクラ。僕はその名を知っている。僕がここサルマリアに来ることにした理由である一通の手紙、そこに書いてあった《種族アヌビス、生徒会長メルキュラ・ベクラが学園へとご案内致します》という一文。

 そうか、この人が……



「クソ……学園長が呼んだネーテル・ログフォーツなる人間は、一体いつになったら来るというんだか……予定では昨日に着くはずなのだが、ただでさえ予定が狂ってイラついていたというのに、待ってる合間に研究資料を集めていたら知らん人間にぶつかって……踏んだり蹴ったりだ」

「あの、ボソボソ文句言ってるとこ悪いんですけど……」

「では、さらばだ青年。私は用事があって忙しいのだ」

「あ、じゃあ……じゃなくて!ちょっと待って!」



 僕は焦って彼女の覆う黒いローブを引っ張った。

 バサッ。



「あ……」



 留め具が取れて、ローブはヒラリと落ちた。

 裏返って落ちた。

 ローブの裏にはびっしりと、色とりどり素材とりどり、男性用も女性用も関係なく、魚の鱗のように下着がくっついていた。



「…………」

「…………」

「…………」

「……下着泥ぼ」

「研究資料だ!貴様、二度と私の資料収集の行為を《下着泥棒》などと下劣な行為と一緒くたにするな!もし次言ったらタダでは済まんぞ。貴様に10分間鼻毛を引っこ抜いた時の痛みを味わわせてやる 」

「よく分からないけど凄く嫌だ!もう言いません!」

「いたぞ!」



 ぞろぞろと怒りを浮かべた表情の男たちが現れて、僕ら二人をを取り囲む。武器を持ってる男も中にはいた。



「やっと見つけたぞ……女房の下着を何度も盗んでいきやがって……!」

「俺の下着もだ!」

「とっとと返せ!」

「おお、落ち着け貴様ら。私は別に盗んでいるわけではないぞ?ただ私の研究に必要な資料を集めていただけで……」

「黙れ!下着泥棒の常習犯が!」



 反論もさせてもらえないメルキュラは顔がかなり引き吊っていた。しかし一瞬でそれは、臨界した怒りの表情に変貌する。



「……もう怒ったぞ。私のことをどいつもこいつも下着泥棒と呼びやがって……《暗転》!」



 そう叫ぶと、取り囲んでいた男たちが一斉に目を抑えてうずくまった。



「な、何だ!?視界が暗くなった!」

「何も見えねえぞ……!」

「真っ暗で動けねえ……っ!」



 突然の出来事に僕が呆けていると、ローブを纏い直したメルキュラさんは再び僕の手首を掴んで走り出す。次々と住宅
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