ハロウィンで一宿

 ハロウィン。

 それはヨーロッパ地方の古代ケルト民族の収穫祭がルーツとされ、他にもバンシーなどの悪霊を祓う魔除けなどの儀式的な意味も持ち合わせている。が、アメリカで民間イベントとなってからは本来の意味のハロウィンでは無くなり、ただの仮装イベントとなっている。恐らくヨーロッパ人以外でハロウィンの由来を知る人間はほとんどいないだろう。

 ハロウィン。

 現代の魔物たちは、当然ハロウィンの由来を知らない。

 というより、ハロウィンが子供のイベントだということもあまり知られていない。成人以上の独身の魔物も子供に混じって近所を回り、『お菓子を貰う』という目的の陰にある別の目的を果たそうとする。したがって、独身の魔物が言うお菓子というのは隠喩であると想像するに難くない。

 そもそも彼女たちはハロウィンに対して『楽しいイベント』『仮装乱交パーティー』以外の知識など必要ないのである。何のためにそんなムツカシイ知識を覚えなきゃならないのか、とブーイングを発するに違いない。

 作者はそんな彼女たちとベッドの上でイタズラし合いたいと、心から願うばかりである。




















 今宵はハロウィン。

 月は満月。雲ひとつなし。絶好のハロウィン日和である。

 住宅密集地ではジャック・オー・ランタンをかたどったランプをぶら下げた子供たちが、人魔に関わらず仮装して家々を回ってお菓子をもらっている。

 たくさんいる子供たちのほとんどは仲のいい友達とグループになって、キヤッキャッと騒ぎながら楽しそうにはしゃぎ回っていた。

 その中で、どのグループにも属さずに一人で家を回っている女の子がいた。女の子は黒い布地にカボチャをイメージした橙色のフリルやリボンを大量にあしらったドレスを着こなし、頭には白いフリルに赤いバラが施されたゴスロリ風ヘッドセット。どちらも長い絹のようなサラサラの金髪や、サキュバスの特徴である翼や尻尾ととても似合っていた。

 少女はマリア。アリスという種族である。

 彼女はふらふらと一人旅していて、たまたまハロウィンの盛り上がりを見つけて仮装したのだそう。しかし彼女の服装はむしろパーティーに適するようなドレスで仮装とは違うものだが。



「えへへ、こんなにいっぱい貰っちゃった♪」



 手に提げたバスケットには、容量いっぱいの菓子類が詰まっていた。

 それを確認し、屈託のない笑顔を輝かせるマリア。



「どうしようかな……次で最後にしよっと」



 気が付くと騒いでいた子供たちの声がピタリと止んでいた。見回すと、ただの静かな夜の住宅街に戻っていた。時計を見ると9時を回っていて、良い子はもう眠る時間である。

 そこでマリアは泊めてくれる家を探すことにした。その会話の流れにハロウィンを用いる作戦である。マリアは少し頭が良かった。

 しばらく歩き回って、マリアの勘が「ここだ」と言った家のインターホンのボタンを細い指で鳴らした。




















 数分前。



「これで配り終えたかな……?」



 飴玉を口の中で転がしながら、ハロウィン用の余ったお菓子を片付けようとする男。

 男は至って健全な、何にも無さすぎる人間である。年齢は三十を過ぎてはいるが健康的な体をしていて、そこそこ女性受けの良い顔だが、今のところ独身だ。



「明日は仕事だし、早めに寝ておくか……」



 その前に風呂にでも、と男は動こうとしたところで、



「んお?」



 鳴った。

 インターホンが、鳴った。

 宅配便が届くには中途半端な時間だし、こんな時間に訪ねてくるような人間は男の周りにいない。



「…………」



 無駄な考えは無かった。

 不審者という可能性も彼の頭の中にはあったが、じゃあ果たして何の恨みで俺は殺されるのか?

 人間の死因がいくらあると思ってる。

 馬鹿馬鹿しい、と男は思った。

 男は宅配便を受けとるかのような普通の歩き方で、まるで物怖じもなく玄関へ向かう。



「はいはい、どちら様ですか?」



 開けると、いきなり活発な声が男の脳に情報として届いた。



「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃ、イタズラしちゃうぞ♪」



 黒いドレスを纏った金髪の少女が目に映る。



「…………」

「…………」

「……待ってて」



 玄関を閉めて、立ちすくむ。



「……可愛いな」



 リビングに置いてある片付けかけていた菓子類を持って再び玄関へ。



「ほら」



 マリアの両手に収まりきらない量のお菓子。

 マリアは笑顔を見せる。



「わぁ……ありがとう、お兄ちゃん!」



 男はマリアの視線に合わせるように脚を折り曲
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