「おはよう。デイジー」
「おはようございます、旦那様♪」
私の妻……マーチヘアのデイジーはそう、にこやかに返す。
テーブルには、既に朝ご飯が並べられていた。
「今日も早いね。おや、朝ご飯を用意してくれたのかい?」
「まあ♪私の用意はいつでも整ってますよ
#9829;」
「違う」
マーチヘア特有の会話力には、一年ほど暮らせばさすがに慣れるというものだ。最初はとにかく色々と悩まされた……ああ言えば性的こう言えば性的と返され、あの頭の中のどこに、ここまでのセクシャルボキャブラリーが詰まっているのだろう。
「……はぁ、さて食べようか。デイジーもどうだい?」
「はい!」
二人向かいあって、テーブルに並んだ料理を食べる。マーチヘアは兎だけあってほぼ菜食。申し訳程度に(スープのダシとか)肉類はあるが、朝食は野菜系ばかり。
人参のスープを掬って飲もうとすると、デイジーはいきなり私を制した。
「実は私、スープに特別なモノを入れたんですよ♪」
「…………」
スープを眺めてみる。
細かくされた人参によって少しばかり人参色に染まってはいるものの、何も変わらない塩鶏ガラのスープ。コショウが浮かんでいるが彼女にとっての『特別』にしては、何だかありきたりに思える。
「まさか媚薬類を入れたんじゃ……」
「い、入れてない入れてない」
「ふうん……?」
一杯ほど口に入れて味わう。
媚薬類の感じはないし、大して風味も変わらない……
いや、違う。わずかに違う。脳髄がそう反応した。
「…………」
かなり馴染み深いというか、感じたことのある風味……昔に舐めた高い塩のだ。
「……塩?」
「分かっちゃった?
#9829;」
急に体をモジモジと動かし顔を赤らめる。
たかだか塩に、なぜ赤くなるんだろうか?
自分なりに考えてみたが、食べ終わっても私には分からなかった。
「えへへー、やっぱり分かってくれた……
#9829;」
至極満足そうに鼻歌を歌いながら、デイジーは食器を洗う。
何かを妄想しているのか、時々ヨダレを垂らしながらせっせと洗う。
「私頑張ったもん。分かってもらわなくっちゃ困るものね♪」
デイジーが何を入れたのか。
それではスープを作る工程と共にお伝えしよう。
1:普通に売っている人参一本を洗い、横方向に真っ二つにする。半分を取っておき、もう半分をミキサーで細かくする。
2:手頃の大きさの鍋に水を4L塩を少々入れ、沸騰させていく。
3:ミキサーに入れて細かくなった人参半分を沸騰したお湯に入れ、人参が程よく柔らかくなったらコショウやコンソメで味を調える。
ここまでは至って普通の人参スープである。
しかしここでデイジーは驚くべきものを入れた。
4:仕上げにデイジーの「潮」を小さじ3杯入れる。
おそらく背中が(色んな意味で)ゾワリとした人もいるだろう。
潮。
読者の想像の通り、女性が絶頂に達した際に分泌・噴出するアレである。
あらかじめ彼女は起きがけ一発、自慰に耽って準備していたのだ。
そんなモノを愛する夫に飲ますなど、端から見ればヤンデレ臭すら漂わす完全なド変態なのだが、発情期オーバーフローなマーチヘアにはこの程度、試みる者こそ少ないものの常識の範疇に含まれるのだ。
そして彼女は自身の夫がそれに気付いているのだと勘違いしている。
「どこで分かりました?」
デイジーは私にそう聞いてきた。
私はどうやら正解したものの、なぜかは分からないが腑に落ちない感じを覚えていた。
「ま、まぁ……そりゃ長く生きていると、味の細かい所まで分かるようになるんだよ」
「混ぜられた媚薬の種類を当てるのと同じ?」
「パッとしないからイマイチ伝わらない……」
私はひとまず、昔に舐めた覚えがあると感じた「塩」の話題を振る。
「美味しかったよ。確かあれって他でもよく使われるやつだったかな……」
「そうそう……ふぇ、え?」
「よく高い店の料理に使われてるやつで……」
(え……ちょ、店で使われる?マーチヘアの中で夫にこっそり飲ませる人がいるっていうのは聞いたことあるけど……んん?売ってるの?愛液って売ってるの!?しかもレストランで使うような珍味扱いされてたの!?)
「ちょっとデイジー!?」
突如デイジーの頭から煙が昇った。こういうのは性的な事以外を深く考えた場合によく起こる。
「しっかりしてデイジー。病院に連れて行こうか?」
「うぅ……ひぐ、う……」
「なぜ泣く……?
[3]
次へ
[7]
TOP[0]
投票 [*]
感想