バフォ様は忘れない

「うぁ……頭が痛い」


昨日は会社で創立50周年を祝う大宴会が開かれた。同僚のオーガと飲み比べで飲みに飲みまくり、結果僕はベロベロに酔っ払って家に帰ったようだ。記憶が全く無い。

 目が覚めて自宅と知り、若干驚いた。


「えーと、メガネメガネ……」


外したメガネを取ろうと、顔を枕に埋めたまま手探りする。

そのとき、触り慣れない奇妙な感触が手から感じた。なんだか妙に尖ってヤギのような形状の、握りやすい大きさの角のような硬いヤツ。手を下にずらすと、今度はサラサラした何か……この触り心地は髪だろうか……さらに下にずらすと、次は柔らかい人肌の温もり……

瞬時、身体が戦慄し二日酔いは吹き飛んだ。

やってしまったかもしれない(二重の意味で)。

今すぐにでも確認したいが、手から読み取った情報をまとめると最悪の可能性が浮かぶ。

酔った勢いでテイクアウト&超エキサイティンッしてしまったかもしれない。

絶望は輝き、死兆星と化した。


「大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ大丈夫だ」


必死に自分をなだめすかし、勇気を出して犯した罪を凝視した。


「すー……すー……」


そこには天使のような可愛らしい茶髪の幼女の寝顔があった。見たところ10歳いってない、初潮も何も来ていないであろう無垢極まった幼女が、僕のベッド(しかもすぐ隣)に寝ているのであった。

じ、人生……オワタ……

 死兆星が隕石となって降ってきた……


「…………」


いやいや考え直せ僕。幼女の服は露出度こそ高いものの全然乱れてないし、いくら酔っても僕は幼女の身体に欲情したりしない。たとえ幼女にキャッキャウフフをしたいと思っても僕はチキンだ何も出来ない……って、幼女幼女連呼して僕は変態か!

とにかく冷静に分析しよう。この種族はアリス……いや、あのアリスがこんな露出度の高い服を着るはずがない。それに悪魔な羽も生えてないし、足は蹄だし……

蹄?


「んぅ……ん?」


 幼女は目を覚ました。未だに罪悪感に蝕まれていた僕は瞬時にベッドから落ちるように隠れた。

ぽーっとした寝起きの顔で辺りを見回す幼女。


「兄上……もう起きてしまったのかのう」


兄上?

そこでピキーンと頭の電球が灯った。しかしそれがこれ以上に無く僕を追い詰めた。

バ、バフォメット……

 幼女の王……

キング・オブ・ロリータ!


「兄上、そんなところで寝ておったのか」

「あ、あの……あまりにも不躾なことを質問しますが、バフォ様はなぜここに?」


その質問にバフォ様は『何を言ってるかコイツは』という顔をしていた。


「あ、兄上……」

「す、すいませんが……私とはどのような……」

「そんなわけないわーっ!!」


突然叫び、まだ寝転がったままの僕の身体に涙目で抱き付いた。


「そんなわけない!そんなわけないのじゃ!ワシの兄上が、ワシの兄上が!『朝起きたら記憶喪失になっていた』なんてことが起こるのはおかしい、有り得ない!なぜワシにばかり!そんなことがあってたまるか!ワシはまた、悲恋に身を置かねばならんのか!?」

「ちょっと落ち着いて……」

「嫌じゃ、また1人ぼっちになるなんて、もう嫌なんじゃ!嫌なんじゃ……うぅ」


顔を押し付け、嗚咽と涙を流す。


「…………」


この時僕は、バフォ様を抱きしめ頭を撫でながら誰が悪いのだろうと考えていた。

記憶喪失をしたのは自分。バフォ様の話が本当だとして、僕はバフォ様の事だけを忘れたというのか。バフォメットにとって『兄』は夫と同義、つまり僕は――

僕は。

人生1つ分の加害者だ。


「ごめん……ごめんよ」

「う……ぐすっ、うう」


しばらく同じ姿勢のまま、バフォ様が泣き止むまで抱擁を続けた。

『もしかしたら酔いつぶれて記憶が無い』という可能性は、もはやこの状況下で無粋だと判断され、無意識が破棄していた。
























『あぁ……っと、バフォメット?』


かなりの二日酔いに陥ってるらしく、電話の向こう側の声はかなり狼狽していた。

相手は飲み比べをした同僚のオーガ。


「僕、もしかすると路頭に迷っていたバフォ様……ミアレっていうんだけど、拾って来ちゃった可能性がある」

『なんだよそりゃ……んで?今何してんの?』

「今はそのミアレに朝ご飯を作ってるとこだけど?」

『いやちげーよ。そのバフォメットだよ』

「右手にフォーク左手にナイフ、ウキウキした顔で朝ご飯を待ってる」


朝のメインは和食だけど。


『とりあえず整理すっけど……相手はお前を兄だと認識して
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