奇稲田稲荷神社。
1500年と余りの歴史を持つ、九尾を祀る神社としては最も大きな社。
小さい頃に行ったことがあるが、威厳溢れる神聖なその佇まいは変わっていない。
ちなみに稲荷神社は祀っている稲荷(例外として妖狐)の尾の本数によって格が決まり、最高の9本から最低が0となっている(0の神社は数少なく、稲荷の代わりに御神体を飾るだけの形式のみの神社)。
そんな奇稲田稲荷神社の鳥居の前で、俺としのは2人並んで立っていた。
「お前の……お母さんに会えるんだよな?」
「はい」
「緊張するか?」
「はい」
鳥居をくぐると、ふよふよと大量の狐火が寄ってくる。やがてそれらは合体し――
「遠路はるばる、ご苦労様です。奇稲田しの様、近衛芳樹様」
魔物の狐火になった。格式高い神社は巫女が狐火、もしくは狐憑きの場合が多い。
「私はここの巫女の宝火。お話は聞いております……お2人を奇稲田異波様のもとにご案内いたします」
そう言って、ふよふよと境内の奥へ。俺としのも宝火の後に付いていく。
本堂の裏は大名屋敷のようになっていて、白砂が整った美しい景観が広がる中庭があった。その廊下のどこかから何やら声が聞こえる。
「あぁん
#9829;もっとぉ
#9829;もっとするのぉ
#9829;
#9829;」
甘い喘ぎ声が聞こえてくる。それをしのも聞いたのだろう、顔を紅潮させて俯く。
「あまりお気になさらず」
「え?あ、いや……」
「日常茶飯事といいますか、科芽様は稲荷より非常に妖狐に性質が傾いており……」
「科芽様?」
「私の叔母様です。私の母である奇稲田異波は三姉妹の長女で、次女の香藍叔母様、そして三女の科芽叔母様となっています」
「なるほど。それで、妖狐と稲荷は亜種なわけだけど、性質って似てくるのか?」
「稀ですがありますよ。基本的な性質は完全な稲荷なんですが、非常に男好きで稲荷がやらないような……その……強姦をするんです」
ということは、今科芽さんの相手はヒィヒィ言わされているということか。
ご愁傷様だった。
「こちらです」
大きな客間に案内され、俺たち2人を残して障子を閉める宝火。
それと同時に、凜とした雰囲気を漂わせた美しい女性が襖を開けて入ってきた。
「どうぞお座りください」
言われるまま座る。
「久しぶりです、しの。もう10年以上ですか、大きくなりましたね」
「お久しぶりです、香藍叔母様。お変わりないようで」
「しっかり嫁いだようで、叔母の立場であるわたくしも嬉しい限りですわ」
くすくすと笑う香藍さん。
「それで、近衛芳樹……でしたね?」
「はじめまして、しのの夫の近衛です」
「ふふふ、そんなに固くならなくて結構ですわ。硬くするのは腰のモノだけで♪」
逆セクハラに指定されかねない、とんでもないことをにこやかに言われた。
魔物ジョーク?
「ともあれ」
忍者を呼ぶ大名のように頭上でパンパンと手を叩く。
すると2匹の狐火が湯飲みと茶菓子を持ってきて、丁寧な動作でそれぞれの前に置いた。
「姉様は今『百年狐参り』に出ておりますので、それまで私が代理で話しますわ」
少し説明すると、『百年狐参り』というのは奇稲田稲荷神社の神事の一つで、祀られている稲荷が百年に一度花魁の姿で分社のある街を練り歩き、無病息災や長寿を祈願するのだ。
湯飲みの茶をすすり、ほっと一息。
「単刀直入に申しますと、あなたたち2人を呼び出したのは、しのに社の祭神になってもらうためです」
「え……!?」
「『しのはまだ早いのでは?』……ですか?」
横目でしのを見る。しのは悩ましげな表情で湯飲みを見ていた。
まだしのは子供だぞ……それなのにいきなり祭神なんて……
「しのがなぜあなたのもとに送られたかは、もう聞きましたね?あの件は例外であり、必要な旦那様を欠かした姉様が私たちに譲らず祭神を勤めることも例外であり、そして――」
バンと扇子を広げる香藍さん。
「住まれていた経歴があるとはいえ、分社の無い地域に住まう方が婿として迎えられる――これもまた、例外中の例外なんです」
「香藍さん……」
「お母様も焦りを見せていらっしゃいます。今決めなければ、奇稲田稲荷神社はここで途絶えてしまうと……」
「はぁ疲れた。花魁の下駄って痛むのよ〜」
緊張感が高まってきたところで、一人の稲荷がくだけた花魁姿で入ってきた。
着物がはだけ、胸元がめちゃくちゃに露出してしまっている。
「あっ」
その稲荷が俺たちに気付き、着物を急いで着直す。
「すみません、お
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