月日の流れと共に文明は発達し、かつてのジャングルがコンクリートのビルが立ち並ぶコンクリートジャングルへと変貌していった様に魔物娘もまた文明の発達と共に適合していった・・・
日本は世界的にもいち早く魔物娘を受け入れ、発展を遂げたいわば「魔物娘先進国」と呼ばれている。
そんな日本のオフィス街の一角に俺、小田島 悟史(おだじまさとし)が勤めている会社がある。
「小田島さん、例の資料の作成終わりました」
凛とした声の女性が俺に声をかけてきた。褐色の肌に紅い瞳、顔立ちは少し幼いが、大人びた雰囲気をしている。
「ありがとう。助かったよ」
「いえ、それでは」
そうして軽く会釈をして彼女はその場を去った。その去り際特徴である大きな「犬耳」と「尻尾」が少しだけ嬉しそうに振れていた・・・
そう、彼女は「人間」ではない。
彼女の名前は橘 結衣(たちばな ゆい) アヌビスという種族の魔物娘だ。
結衣ちゃんは今年の春入社したばかりの新入社員だ。ここ近年、魔物娘の社会進出は目覚しく、その能力を目に付けた各業種が優秀な魔物娘の獲得に奔走している。その中でも真面目で勤勉、管理を得意とするアヌビス種は将来の幹部候補生としてどの企業も採用に奔走しており、毎年人事部は他企業との争奪戦を繰り広げている。そんな争奪戦をうちの人事部が制し、結衣ちゃんが入社したわけだ。そういえば、去年結衣ちゃんの獲得祝いに俺も呼ばれたっけ・・・結衣ちゃんを獲得したことに対して会社から人事部に報奨金がでたらしい・・・。
入社して半年、彼女は期待を裏切らず非常に優秀であった。飲み込みを早く、嫌な顔せず気前良く仕事をこなしてくれる上、謙虚な姿勢から男女問わず先輩社員からも可愛がられている。そんな結衣ちゃんと俺は同じ部署であり、彼女の先輩でもある。当然さっきの様に資料作成をお願いしたり、面倒な仕事を一緒に手伝ってもらったりと何かとお世話になっている。お礼を言うと恥ずかしそうにはにかんだり、本人は無意識だろうが、耳や尻尾がふりふりしている。
・・・実にかわいらしい・・・
そんな姿見たさにわざと仕事を頼んだりする同僚もいる。本人にとっては迷惑な話だが、自分もその中の一人であるので、あまり強くも言えない・・・
時には雑談もするが、やはりアヌビスの性か、きっちりと仕事とプライベートの線を引いている。仕事もきっちりとこなし、ほぼ定時で帰宅している。そうなると中々お誘いもしづらい訳で・・・。たまに誘っても「いえ、今日は別の約束がありますので」と丁重にお断りされ続けている。
「俺って避けられてるかな・・・」そう感じて、最近凹んでいる・・・
そんな事を思っていた矢先、ある事件が起こった。
「橘君、ちょっといいかい?」
「はい」
ある日、結衣ちゃんが課長の加藤さんに呼び出された。
「この間の半期決算棚卸なんだが、どうもここだけ数字が合わなくてね・・・」
「えっそんな・・・先月まで納品した商品との誤差はありませんでした・・・」
「しかし、半年間のデータと納品書を見比べるとどうしても合わないんだよ」
結衣ちゃんは驚きの声を上げる。棚卸はうちの会社にある備品や商品を毎月すべて実際に数え、納品した内容と相違がないかをチェックする大事な仕事だ。こうした地道で確実性が求められる仕事は結衣ちゃんにはピッタリで、入社当初から任されていた。今まで問題なく業務をこなしていたが、それがどうも先月から今月までの間になんらかの理由で商品が一箱欠品してしまったらしい。しかも、決算の報告が迫っているためちょっと厄介な話のようだ。このことに対して動揺する結衣ちゃん。
そのやりとり聞いていた俺は課長に声を掛けた。
「課長、もう一度倉庫で数字を拾い直します。数え間違えや保管場所の間違い等の可能性も充分にありますし、決算報告まで少し時間をいただけないでしょうか?」
「ふむ、そうだね。では小田島君と橘君とで調査しなさい」
「わかりました」
「はい・・・」
こうして俺と結衣ちゃんは会社の倉庫へ向かうこととなった。
「よっと・・・ふう、結構あるな・・・・」
その日の昼から俺と結衣ちゃんは会社の倉庫へと赴いた。しかし、やはり課長のいった通り商品の数が合わなかった。そこで、俺達は会社とは別の倉庫へ行くことにした。俺達の会社はそれなりに大きな商社なので、大型の物流倉庫を借りているのだ。結衣ちゃんと調査では会社にあった在庫はこの物流倉庫から定期的に運び出されて補充されているらしい。先月から今月までの間でその補充は一回しか行われていない。とすればそのときに何らかのミスが生じたと思われるからだ。そこで商品の補充元である物流倉庫に出向いたという訳だ。
「私も初めてここに来たんですが、こ
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