もうすぐ日が暮れそうな夕方、俺は大学の近くにある学生寮を訪れていた。
ピンポーン・・・ドンドン
「有田〜俺だ、伊勢だ。ゼミの資料もってきたぞ〜」
・・・・・ドア越しに僕は声をかけるが返事が無い
「・・・」
ピンポーン・・・ピンポーン・・・
「有田〜いるなら返事をしてくれ〜〜」
ドンドンドン、カチャッ
「・・・空いてる・・・まったく無用心だな・・・」
俺は鍵が開いていたので僕は室内に入らせてもらった。
「有田〜お邪魔させてもらってるからな〜」
それなりに聞こえる声量でこの部屋の住人有田へ向けて入室を告げたがやはり反応がない・・・
「・・・本当に留守か・・・?」
「・・・・・」
しばらく無言で聞き耳を立ててみる・・・すると・・・
「ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・」
どこからか健やかな寝息を立てているのが聞こえてきた。
「やっぱり寝てるな・・・」
僕は有田の部屋の中に入り、この寝息の元を辿っていく。とそこには・・・
「ZZZ・・・ZZZ・・・ZZZ・・・えへへ〜もう食べられないよ〜〜ムニャムニャ・・・」
部屋中に"糸"を張り巡らしそれをハンモックの様にして気持ちよさそうに寝息を立てつつ、見事なテンプレ寝言を披露する有田がいた・・・足元には散らばった雑誌にインスタント食品のゴミ、デスクトップ型のPCにはネトゲらしき画面が表示されていた・・・
「大方予想はしてたけど・・・相変わらずのアントアラクネのだらけっぷりには恐れ入るな」
そう彼女は怠け者で有名な種族のアントアラクネ。こうして見ているほうが清清しいくらいの怠惰ッぷりを披露してくれいているのだ。
「この調子だと今日一日ずっとこんな調子だったんだろうな〜・・・まあいいや、お〜い有田!起きろ〜〜!!起きないと今日の講義とゼミ資料渡さないぞ〜〜!!!」
「う〜・・・それは困る〜〜このままじゃ単位が落ちる〜〜」
「じゃあ、いますぐ起きろ」
「は〜〜〜い・・・」
そう言って有田はのろのろとダルそうに起き上がり8本の足で立ち上がった・・・
「ふわ〜〜〜おはよ〜伊勢君」
「おはよ〜じゃねえよ。むしろ”おそよう”だろ・・・」
「そうともいう〜・・・」
「やれやれ・・・その様子だとずっと寝てたみたいだな・・・もうすぐ夕暮れだぞ。」
「ふえ・・・?もうそんな時間・・・??一日過ぎるのって早いな〜〜」
「・・・毎日一日の大半を寝るか、ネトゲしてる有田ならまあ早いだろうな」
「それほどでも〜〜♪」
「褒めてないって・・・」
皮肉をたっぷり込めたのに彼女にはまったく通じていない・・・
有田こと有田 優美(ありた ゆうみ)は俺、伊勢 真人(いせ まさと)と同じ大学に通う2年生。同じゼミに所属し、学生番号が近いことから、入学時のガイダンスから同じ班になったりすることが多く、入学した時からの付き合いである。入学当初からこんな感じでサボり魔であった彼女は講義やゼミの出席率がかなり悪く、常に単位が危ない状態であった。比較的講義やゼミに出ている俺はあまり学校に顔を出さない有田が心配でちょくちょくこの寮に顔を出しては講義内容を書いたノートのコピーやゼミの資料等を渡していた。その介あってか、有田はなんとか1年の時に必要な最低限の単位だけは取得できていた。(それ以外の講義は出席率が悪すぎて評価が「可」や「不可」が大半)最初は心配して同じゼミの仲間達も僕と同じように有田に学校に来るように促していたが、段々と愛想を尽かし、来なくなっていた。その中でも俺だけは彼女の事が気にかかり、こうして彼女に会いに来ているのだ。
「しかしよくまあお前この大学に入れたよな・・・そもそもこんなんじゃ高校とかで単位とれてなさそうなのに・・・」
「ふふふ〜これでも成績自体はかなり良かったんだよ〜・・・」
「・・・こんなダラけた生活してるのにか?」
「実家にいたときはお母さんは何も言わなかったけど〜お父さんが割りと厳しかったからね〜・・・授業とか勉強はぼちぼちしてたの〜・・・」
「そうだったのか・・・で、その反動でこの自堕落生活って訳か・・・」
親の目がある実家暮らしから開放された寮での一人暮らしじゃまあしょうがないかもしれないが・・・
「まったく・・・しょうがないな・・・まっせめて講義やゼミで寝ててもいいから学校には顔を出せよな」
「う〜〜〜学校まで行くのダルい〜〜〜」
「・・・この学生寮から歩いて5分もかからないだろ・・・」
有田が住んでいるこの学生寮は学校から近く有田以外の学生も多数住んでいる。この立地の良さから春先には入居募集が毎年殺到するらしく、入居できるかどうかは抽選で選ばれる。その抽選に見事当選したのが有田という訳だ。ちなみに俺は片道1時間の自宅通学である。
「逆に近すぎるのも問題かもな・・・まあ有田の場合は遠かろうが近かろうが関係な
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