嫌な予感がして事実その通りの事が起きるのはいい気分ではない。メイソンはビーチから吹いてくる風がいつもと少し違う様に感じていた。それに今朝のカイマナの態度も妙なものだった。
夜になり、そろそろワシントンから遊びに来る姉を空港へ迎えに行くべきだろうが、悪い予感は依然彼の心を乱している。頭を掻いて焦りを鎮めようと努め、1つ気付いた。カイマナがいない。彼女にも携帯を持たせておくべきだったかと悔いながらも、メイソンは何となく更に嫌な予感を覚えた。予感に従いスマートフォンのメール送信ボックスを閲覧したメイソンは、ホラー映画のキャラクターの様に目を見開く羽目となる。
「何て事を!」
確かに彼は驚いた。人生で最も衝撃的な事態に遭遇しつつも、しかし彼は強い意志を持つタイプの男であり、今見たものを現実として受け止めて即座に行動に移す事が出来た。急いで家を出たメイソンが、ポケットにしまったスマートフォンの画面にはこう表示されていた。
「姉さん、じゃあ今回はカメハメハ大王像で待ち合わせよう」
「ちょっと!? そんなもの振り回したら危ないわよ!」
一般的な傷害事件の例と比較すれば、セリーナ・コールの生存時間はかなり長い方ではないだろうか。と言っても、そういう事件は大抵一撃目で死ぬ場合が多いが。今現在、大王像の周辺で行われているこのハンティングにおいて、生粋のハンターからセリーナは実によく逃げ延びていると言える。
ハンターはセリーナの言葉に何も言い返そうとせず、ひたすら無表情のまま刃を握り締め、セリーナを貫こうと迫る。だがもしハンターと親しい者がこの場にいれば、その微妙な表情の変化から彼女の考えを読み取れたかも知れない。ハンターは今、嫉妬に駆られて「悪い虫」を駆除しようとしていたのだ。少なくとも彼女の視点ではセリーナが害虫に見えていた、比喩と直喩の両方の意味で。
このままでは追いつかれると感じたセリーナはひとまず大王像の方へと逃げる。何の足しになるのか、それはわからないが。一応障害物の近くに逃れる事は、この絶望的状況においては上策な方だろう。無いよりマシとは、本当に何も無いよりは遥かに救いがある。
「カイマナ! 今すぐ止まって武器を捨てろ!」
だが救い以上のものがカメハメハ大王像の裏でセリーナを待っていた。セリーナが大王像の横を通過すると同時に、その陰からメイソンは銃を構えて飛び出す。彼の動きには乱れや無駄が無く、その洗練された動きが彼の信念を語っているかのようでもあった。メイソンとしてもこのような事態は到底受け入れがたいものではあったが、それでもこうして行動を起こさなければ自分の大切な姉を恋人に殺されていた事だろう。
「…退いて、その害虫を殺さなきゃ」
予期せぬメイソンの乱入にはさすがにカイマナも驚いたが、その表情の変化はセリーナには読み取れず、メイソンだけが読み取れた。メイソンが立っている大王像の側から5mのところでカイマナは足を止めているが、依然槍のようなものを構えたままで彼らを伺っている。この緊迫した空気の中で、セリーナは像の影からヒョコッと顔を出して場違いな態度と言葉を発した。
「昔っからあなたって女の趣味が悪いと思ってたけど、こりゃやりすぎじゃないの?」
「姉さん、静かにしてくれ!」
よくあるパターンとしては、ここで気が逸れて隙を突かれるのだが、その点メイソンはしっかりしており、このような状況下においても相変わらずなノリの姉に返答しながらも、視線はカイマナの挙動に注視したままであった。ホノルルの治安はアメリカの基準で言えば楽園と言ってもいいが、それでも何かしらの事件が起きないわけではない。刑事として勤務してきたメイソンは、この街の安全を守る事を使命とし、その為の向上心や意志力も人並み外れて高かった。
「彼女は俺の姉だ! だから君が嫉妬する理由なんか無い!」
「…関係、ない」
まるで炎と水の様に対照的なカップルではあったが、それでもメイソンとカイマナの仲はとても良かった。それがまさかこんな事態になってしまったのは、どこの神の気まぐれだろうか。少なくともハワイの神々は、ここまで残酷な運命を用意しないのではないだろうか?
「俺は本気だぞカイマナ! 今すぐ武器を地面に置いて手を頭の後ろに回せ!」
メイソンとて本当は最愛の人に銃を向ける様な真似などしたくはない。だが、彼の正義感は目の前で起きている非道を見過ごせるはずがなかったのだ。決して彼は受け身で振り回される弱者ではない、それ故にこうせざるを得なかった。
「…それは出来ない」
一瞬カイマナの姿勢が低くなり力んだ風に見えた、そうメイソンが認識して処理している間にカイマナは2.5m進んでいた。極度の緊張状態に陥った時、人は周囲がスロ
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