「お主を旅の勇者と見込んで頼みがある。どうか囚われの我が子を救ってはくれないだろうか?」
お決まりの台詞である。なんらおかしくない。囚われの子を助けるために勇者に頼るのは至極当然だ。唯一つ違和感を覚える点があるとすれば、頭を下げているのがドラゴンであるという点か。
「はァ」
自分でもずいぶん間抜けな声が出たと思う。意味が分からない。ドラゴンの子を攫うなんて正気の沙汰ではない、どこかの身の程知らずのアホ勇者だろうか?
とにかく詳しく話を聞くことにする。
「我が住処を離れている間に娘の一人がトムラーダ城の姫によって攫われてしまったのだ。お前の手で悪しき姫を倒し我が娘を助けてやってくれ」
「ハァ?」
聞き間違いだろうか。私は耳が良いほうだと思っていたがこの年で難聴のようだ。きっと、娘が姫を攫ってしまったが、乱暴な勇者に襲われると危ないから、比較的魔物に理解のある私が手心を加えて、娘を倒しに行けとかそういう意味だろう。
「我が娘がトムラーダの姫に攫われたから姫を倒し娘を助けてくれ」
「もう一度お願いします」
難聴が気付かぬうちにかなり進行していたみたいだ。まったく別の意味に聞こえてしまっている。これでは姫を倒してドラゴンを助けるみたいではないか。
「だから! 姫を倒し我が子を助けろと言っているのだ!!」
ご丁寧に前時代の姿で仰ってくださりありがとうござます。よ〜く聞こえました。
…耳から血が出るほどな。こっそり治癒魔法で鼓膜を直したがまだ耳鳴りが酷い。
「娘さんがトムラーダの姫に攫われたと…そういうことですか」
「何度も言わせるでない」
「それは失礼しました。ですが、なぜご自身で娘さんを助けに行かないのですか?」
お前が行けば万事解決だろうに、こういう大事な事を人に任せるからどこの悪役もやられてしまうのだ。…とは言えない。怖いもんドラゴン。
「それが出来れば苦労せぬわ!!」
いちいち元の姿に戻らないと叫べないのか。お前の咆哮はスタンだけじゃ済まないんだよ。ダメージもしっかり入ってるの。また鼓膜を直さなければならない。
「姫が我が娘を捕らえたことによりトムラーダはもちろん、その周辺の国までも我が住処を攻め落とそうと画策しておる。ここにはまだ一人立ちできぬ我が子たちがいるのだ。動くことなどできぬ」
確かに洞窟の奥のほうで小さいのが何匹かこちらを覗いている。これが全て成体になったらと思うと… 今の時代になってよかったとつくづく感じる。
「失礼ですが旦那様はどちらに?」
かなりプライベートな話だがやるからには、気になる点は全部聞いておかないと気が済まない。
「皆、代替わり前の子だ」
代替わり前って…何年経ったと思っているんだ。それであれしか成長してないとは…ドラゴンの寿命はいったいいくらなのだろうか。
「もう一つ気になるのですが、なぜその子だけ連れて行かれて他の子は無事なんですか?」
「無事ではなかったわ…私が帰ってきた時には皆虫の息であった… 話を聞くと、急に襲い掛かられ、ろくに抵抗も出来ずにやられてしまったらしい。戦いの仕方は抜かりなく教えていたが…この様だ」
「姫一人にですか!?」
「姫一人に だ」
つまり、幼いと言えども無類の強さを誇るドラゴンの群れを抵抗を受けずににボコボコにしたと
一国のお姫さまが …何かの間違いではないか
「そ…そもそもなぜ姫の仕業だと…」
「我が子は皆体は小さいがすでにお前の倍は生きておる。並みの勇者であれば一人ででも追い払える実力をもっておる。それを簡単に負かすこと出来るのは、この国ではあの姫しかおらぬわ」
「そんなに強いんですか…?」
「この大陸一帯に名が知れ渡っているほどな」
確かに噂でとんでもなく強い姫がいると聞いてはいたがまさかそいつとは…
嫌な汗が垂れてくる。
「最後にもう一つ質問、なぜ私なのですか?」
私じゃなくても良いなら、他の人に代わってもらおう。ていうか代わって欲しい。
「お主の武勇伝は我が耳にも入っておる。それに我の咆哮に動じぬ胆力やその隙のない佇まいを見ても高い実力があるのは見てわかる。これはそんなお主にしか頼めぬことだなのだ」
べた褒めだが、この状況では全く嬉しくない。昔は名が挙がって喜んでいた時期もあったが、魔物も人も関係なく依頼を受けていたので名声が高くなるにつれて、教団に狙われ、魔物にも目を付けられて、とさんざんな目に遭っている。襲ってくる盗賊団もなぜか名声に比例して強くなっている気がする。
「なるほど、理由は分かりました。人間にしろ魔物にしろ子が攫われて心配しない者は居ませんからね。任せてください。必ずや貴方の子供を助け出して見せましょう」
本当は
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