魔剣が嫁を探してくれるというのに三千里どころではない剣

 
 みんな!おはよう!私、魔剣!つまりカースドソード!名前は・・・ないよ!残念ながら魔剣って言ってもピンからキリまでいるからね。仕方ないね。

 新しい魔王に封印された時は、これから一体どうなるんだろうって不安だったけど、案外何とかなるもんだ!

 こうやってもう一度元気に娑婆に出ることが出来たんだから剣生ってわからないね!

 昔はもっとイライラクサクサしていた気がするけど今じゃムラムラモンモン!晴れやかな気分!まるで生まれ変わったみたいだよ。

 そんなわけで私の封印を解いてくれた新しい持ち主様を紹介するね!

 はい!じゃーん!このお兄さんです!

 え?ずいぶん冴えない小男ですって?チッチッわかってないなぁ、今時容姿なんて気にする人の方が少ないんだよ・・・と私の本能が直感しているよ!

 これからよろしくねお兄さん!



・・・とまあ、こんな感じで媚びれば誤魔化せるだろう、多分。完全に淫魔の魔力に侵されなければ封が解けないなど、現魔王も質の悪い封印をしてくれたものだ。

 しかし、本当に冴えない男だな・・・容姿は実際どうでもいいが、あまり小さいと剣を振るにも不利になりかねん。私を満たすためにこれから多くの人間を切らねばならぬのにこの男で大丈夫だろうか?

・・・まあ、働き様によっては私を抜いた褒美として、我が主人と認めてやっても良いが

・・・働き様によってだからな?


――――――――――

 ついに俺にも運が向いてきたのだろうか。まさか雨宿りをしていた洞くつの奥に、こんな大層な物が封印されていたとは夢にも思わなかった。カースドソード、話には聞いていたが自分が見つけることになるとは。

 初めは何かが大量の鎖に巻かれているとしか認識できなかったが、松明で照らして柄らしきものを見た瞬間、これが封印された魔剣であることを理解した。厳重に巻かれていた鎖も長い時を経て根元のくさびが朽ち果てており、簡単に外すことが出来た。それほどの長い年月に晒されていたはずの魔剣は、錆は愚か刃こぼれの一つも見当たらず、火に照らされて黒い刀身に紅い一本の線を怪しく輝かせていた。

・・・

 しばらく刀身に見惚れていた。俺は意を決して柄を握り、突き刺さっていた刃を引き抜くと、あっさりと地中から脱し、全身を俺の前に表わした。目の前で妖光を放つそれは何者をも圧倒する禍々しさと、どこか惹かれる艶めかしさを感じさせた。

 そのまま握っていると得体のしれない何かが流れ込んでくる、これが魔剣か。
だが、流れ込み続ける妖気は肩に届く前に汗が噴き出るように腕から抜けて落ちてしまった。やはり、図鑑に記載されていた通り、俺を浸食することは叶わないようだ。

 人間の女が持てば人斬りの衝動に駆られた挙句、体を乗っ取られ伴侶が見つかるまで闇雲に剣を振り続けることになる。だが、男が持てば自分の好いてくれている女性を探し、斬りかかってくれるというではないか!これでやっと俺も運命の相手と愛を育むことが出来るぞ!

さあ!魔剣よ、俺を運命の相手に導き給え!!


――――――――――

 ・・・・・・なんということだろう。このアホは私をキューピッドの矢か何かと勘違いしているようだ。私は魔王に作られし魔剣。そんな恋占いのような真似が出来るか!

 と言いたいところだが、何故かは知らんが今は出来る。おそらく、強者に反応しそこに導かせる機能がこの時代の魔力によって変質してしまったのだろう。我ながら情けない限りである。

 仕方ない。望まれているならやらざるを得ない。少しでも期待した私が馬鹿だった。とっとと女を探して魔物化させて、こいつが満足したら他のまともな奴の所に行こう。

んぬぬぬぬ・・・ハァ!







・・・あり?





――――――――――

 なんだろう、限りなく反応がない気がするのだが。もっとこう・・・脳内でピキーン!みたいな感じかラピ○タの飛○石みたいにビームが出るものだと思っていただけにこの無反応さは正直拍子抜けである。

 まさか、俺の事を好きな女性がこの世にいないというわけではないだろう。もしかしたら該当女性が多すぎて一番俺の事を好きな女性の検索に時間がかかっているのかもしれない。きっとそうだ。

――――――――――

 そのまさかだ。いくら探しても見つからない。確かにこのナリでは人間にはモテないだろうが、一人くらいいたって良いものだと思うが・・・

 こいつの記憶を遡って脈がありそうな女を探してみても箸にも棒にもかからない。別に悪い男ではないのだがなぁ・・・

――――――――――

 いつまで経ってもそれらしい事が起きない。本当に俺を好きな女性が見つからないのだろうか・・・?

 ・・・残念だがそうならそうで潔く受け入れるしかないだろう
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