らしくないマンティコアとらしい勇者

「あいびりぶいんざも〜にさ〜ん♪」テシテシ 

 マンティコアのメコレは、いつもの様に森の中をぶらぶらと男探し・・・もとい散歩をしている。天気も良くなんだか気分がいいらしく鼻歌をし始めた。そして、思いのほか気分が乗ったようで、尻尾でリズムを執り、持ってきた如雨露を振り回しながらの熱唱に変わっていった。

「ゆ〜めいせいあむあふ〜る♪」クルクル

 遂には、ミュージカル風に自分をプロデュース開始、わざとらしくスキップしてみたり、ありもしないカメラアングルに気を遣いながら手を広げて回ってみたり木にぶら下がってみたり。

「ゆきゃんこるみぽりあなせい♪・・・あう!!」ボキッ

 調子に乗って木の枝にぶら下がった結果、枝は根元から折れてメコレはしたたかにお尻を打ち付けた。しばらくその場で間の抜けた苦悶の声を上げてのたうち回っていたが、少しすると素知らぬ顔で立ち上がり体についた埃を払うとまた散歩に戻った。

―――
――


「メコレお姉ちゃん〜!」

 自分の名を呼ばれたメコレが後ろを振り向くと、笑顔で手を振りながらこちらに向かってくるワーウルフの姿が見えた。

「よお、ルプ。今日も元気そうだな〜でも、あんまりはしゃいで怪我しないように・・・じゃなかった。

・・・フン、全く五月蠅いのに会っちまったぜ」

 笑顔で手を振りかえし、駆け寄ってきたワーウルフの少女の頭を撫でていると、はっとした表情で両手を組みしかめ面になった。

「こんにちわん!!」

 特にそれを気に留めることもなく、ワーウルフの少女、ルプスは元気よく頭を下げた。

「何か用か、俺は静かに散歩したいのだが?」

 つっけんどんに言い放ち、そのまま無視して歩き出す。その後をワーウルフが笑顔を崩さぬまま楽しそうに付いていく。

「実は昨日ね!シューさんのねー!あ、シューさんは『ひネズミ』なの!強いの!その人がね!あのね!えっとね!こうびゅんびゅんってしてるのみたの!」

 ルプスは大袈裟な身振り手振りを交えて、火鼠のシューが昨日彼女に拳術の演武を見せたことを拙いながらも一所懸命に説明した。

「ああ、シューさんか!俺もこの前見たぜ、凄かったよな!パンチするたびにびゅっびゅっ!て音がして!離れてみてた俺のところにまで空気が飛んでくるのが分かったもん!」

 腕を組んでツンとしていたのは最初だけで、すぐに自然とルプスと同じ目線までしゃがみ込んで行き、最終的には一緒になって盛り上がり始めた。

「うんーとってもすごかったの!」

「今度はいつ来るんだろうな、楽しみ・・・・・・じゃない!
 ・・・あんなの大したことないぜ。俺の方があれの10倍強いね」

 にこやかに談笑している自分に気づき、すぐにまた腕を組んで難しい表情に戻したが先ほどまで笑っていた顔を無理やり変えたので、なかなかに間抜けな顔になってしまっている。

「えーほんとー?」

「俺を誰だと思っているんだ?」

「変だけど優しいイヌ科寄りのお姉ちゃん」

「違う!マンティコアだマ ン テ ィ コ ア !それに変じゃないし優しくもなくてイヌ科要素もないの!」

 握り拳を胸の前におき膨れ面で、大人げなくワーウルフに抗議している。

「そうかなー?」

「そうだ!もう!不愉快だからさっさとどこか行けよ!
俺はお前みたいに暇じゃないんだから!」

 嘘である。むちゃくちゃ暇である。

「はーい!じゃあまたね!メコレお姉ちゃん!」

 後ろ手に手を振りながら来た道を風の様に走っていった。

「拳法かぁ・・・」

 見送った後にぼそりと独り言ちて、またふらふらと歩き始めた。

―――
――



「シュッシュッ!」

 今度は闇雲に拳を振り回し、体と尻尾を左右に揺らしながら森を徘徊している。

「ていっ!ていっ!」

 全く知りもしないのに、霧の国の火鼠がやっていた演武の真似事で、上段蹴りや正拳突きらしきものを放っているがどこか締まらない。だが、本人はかなり満足そうに手足を動かしている。

「はぁっ!せい!・・・あう!・・・ど、どうだあ!」

 最後に回し蹴りを木に叩き込むが、蹴り慣れていない上にすねの裏で木を思い切り蹴ってしまった。じんじんと足が痛み目の端に涙が溜まっているが、今思いついた決め台詞を言うまでは我慢するつもりのようだ。

「ふ・・・ふふふ、隠れているのは分かっている!今きさまに見せたのはほんの余興に過ぎない!
 命が惜しくなければ出て来い!このマンティコアのメコレが真の力を見せてやるぜ!」

 もちろん、誰かがいるなどと思ってはいない。その場のノリと勢いだけである。

 




「ほう、分かったか。お前がここらを根城にしているマンティコアだな?」

「フハハハン!!やはり俺に臆して逃げ出したようだな・・・
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