フォーメルとジナンの一日

「はあ…」
 フォーメルはパジャマ姿で食卓に着くや否や、大きなため息を一つ吐き、気怠そうにミルクが注がれていたコップに口を付けた。目にはうっすらと隈が出来ており、疲れが顔に出ていた。
「どうしたんだいフォー?」
「具合が悪いなら無理せずいうのだぞ?もう我慢しなくても大丈夫・・・じゃ」
 異変に気が付いた両親は心配し、憔悴したフォーメルの様子を訊ねる。しかし、娘の変化には過敏に反応するのに、先日までは彼らも似たような顔をしていたことは忘れているらしい。
「違うのじゃ・・・実は、ジナンのしていた母上たちの仕事の手伝いも一段落したし、ここらでジナンへのアピールをもっと積極的にやっていこうと一晩中考えたのじゃが、いかんせん良い考えが浮かばないのじゃ」
 そういってフォーメルは溜息とも欠伸とも取れる吐息をし、食前の祈りを手早く済ませパンをモソモソと口に詰め込んだ。彼女は自由奔放そうにみえるが、意外に周囲に気を遣う性格である。気の遣い方が適切かどうかは別だが。
 実際、ジナンが罰として労働していた折は、ほぼ独学で魔法を研究しジナンの手がかからないようにしていた。
「恋の悩みだな。それならお母さんにバッチリ任せなさい!愛娘の恋路のためなら何でも協力する・・・のじゃ!」
「もちろん、僕も応援するよ」
 バーメットもアーレトも、今まで頼ることに遠慮がちだったフォーメルがこうして自分たちに相談してくれるのが嬉しかったのだろう、やたらと張り切っている。
「おお!それじゃあ、ジナンの結界を破る手伝いをして欲しいのじゃ!」
 フォーメルが見た所あれは、あらゆる感覚に作用する結界のようであった。いかに可愛らしい姿だろうが甘い声だろうが問答無用で魅力をシャットアウトし思慕欲情を防ぐ。このままでは取り付く島もないとの結論に達した。
「「 無 理 」」
「さすが父上母上即答なのじゃ!さっそくジナンのところに・・・・・・え?」
「残念だけど・・・」
「流石にそれは・・・」
 静かに俯きテーブルを見つめる二人。その表情は、クリスマスに大幅な予算オーバーの物を要求された時と同じ顔であった。
「そんな・・・あ、そうじゃ!メイやリネと・・・いやもういっそ国のサバト全員で一緒にやるのは!?」
 元勇者のリネットや実力のある魔女であるメイギスを含むサバトならば、例え要塞用の結界だとしても容易く敗れる。それにバフォメット二人とその夫が加われば、ジナンの結界も耐えられないかもしれない。その一縷の望みを口に出したが
「仮に集めたとしても無理だろうな、傷の一つ付けば上出来だ・・・じゃなかった、なのじゃ」
「ジナン様のことだから、予備の結界も何枚か用意しているだろうし・・・」
「なんじゃそりゃ・・・」
「魔法に関してはジナン様を人間と思わんほうがいい」
 今度はバーメットとアーレトが大きなため息をついて、各々のコップに注がれたものを飲み乾した。窓から朝陽が差し込む食卓は、雨の降る深夜のよりも暗い雰囲気に包まれている。
「まさか人でなし判定されるほどとは・・・」
 がっくりと力なくうな垂れ、そのまま動かなくなってしまった。
「・・・他の方法を探したほうがいいね。あ、でも前向きに考えれば、他の子たちになびくこともないってことだし安心かもしれないよ?」
 閃いたとピンと人差し指を伸ばし、フォーメルに前向きな意見を伝えるアーレト。彼も実年齢はともかく、外見が少年のためこのような仕草を行うと外見相応の子供らしさが顔を出す。
「儂にもなびかなかったら意味がないのじゃ父上・・・」
 うな垂れたまま、呻く様に返事を返す。
「だが、その結界も性的な魅力だけを感じないようにしているだけだろうし。他の方法で惚れさせることはできるはず・・・じゃな、多分」
 独り言のようにぼそりとバーメットが呟く。
「・・・母上、どういうことなのじゃ?」
「つまり・・・そうだな、例えば家庭的な所をアピールされたり、趣味が一緒だったりするとグッとくる男性も多いということさ、「元」男の儂が言うんだから間違いないのじゃ」
 旧時代から生きてきたバーメットならではの発想ではあるが、言ってることはかなり単純である。
「なるほど!その手があったのじゃ!家庭的な女アピールでジナンのハートはもう儂の物も同然なのじゃ!」
 たわんだ竹を放したようにフォーメルが飛び上がった。
「包容力があって甘えさせてくれる女性に男性は弱いものさ。そして時たま、反対に自分に甘えられるともう骨抜きじゃな!いわゆるジパング撫子というやつじゃ!」
「ん?」
 アーレトの眉がピクリと動いたのを、調子に乗って話し続けるバーメットは知る由もなかった。
「おおー!ジパング撫子!これは絶対いけそうな気がするのじゃ!!
 さっそくジナンの家に行って実践してくるのじゃ!」バタ
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