「うぅ…あづい゛…」
急に夜中に目が覚めてしまった。
寝巻きが汗でびったりとくっついて不快この上ない。
もう一度寝直そうとしても雨季のジメジメとした湿気と熱気のせいで寝れそうにない。
窓を開けて外気を取り入れようと考えたが、ここは森の中、窓を開けっぱなしになどしたら、たちまち蚊の餌食にされてしまう。
「さて、どうするかな…」
台所に水を汲んでくる。井戸水ではなく魔法によって保存されている水のため温くなっている。
生暖かい飲み水を飲み、椅子に腰掛けて、考えを巡らせる。
「今年は、一段と暑いみたいだな…まったく運の悪い」
例年ならば、暑さをしのぐための術式を発動させるのだが、魔道具を買い付けていた行商人が今年、行方不明になってしまった。おそらく、アマゾネスやフェアリーなんかに連れて行かれたのだろう。
おかげで必要な道具を揃えることが出来ず。むしむしとした部屋で愚痴を言わなければならない羽目になった。
「いっそ、思い切って裸で寝るというのもいいかもしれん。寝巻きがべたつくから眠れんのだ」
さっそく実行に移したところ、思いのほか気持ちが良い。汗がそのまま蒸発し、体が心地よく冷えてくる。
その晩はそのまま眠りにつくことができた。
ハックション!! ウェ゛ーイ
朝起きると体の芯から寒さが襲ってくる。体もだるい、頭はじくじくと痛む。
なぜ、あのときの私はこの危険性を考えてなかったのか…
「いくら暑いからと言って、裸は不味かったか…」
熱で軋む体と痛む頭を酷使し、どうにか着替えてベッドに横たわる。
昨晩の自分を殴り飛ばしたい気分である。
いちおう、魔導師のはしくれなので、家にあった薬草で解熱剤を作ったものの。風邪がすぐによくなるものではなく、今日は一日安静にしていなければならない。
「あぁ…こんなときに嫁さんでもいれば…」
この前にあった友人が、先日結婚した嫁の自慢をしていたことを思い出す。魔物娘と結婚したと聞いて心配であったが、彼が本当に幸せそうであったため、杞憂であったことを悟った。
『ほんと、うちの嫁さんは最高だよ。スライムなんだけどね、あのひんやりプニプニの体!
もうね…もう…たまらんね…っ!フヒッ』
涎を垂らしながら惚気話する彼に、別の心配をしたが。
「結婚か…」
今寝ているベッドに、美しいもしくはかわいらしい女性がいっしょに寝ていることを妄想してしまう。
人の温もりと柔らかさを想像し、人肌恋しくなってしまう。昔はよく娼館に通ったものだが、森に越してきたからはご無沙汰になっている。
「もし、結婚するんだとしたら俺も魔物娘の女の子と…」
友人の幸せそうな顔を思い出す。
「よし!俺、結婚する!結婚!けっこぉぉぉぉぉぉぉぉおん!」
ガバッとベッドから起き上がり大きな声で宣言する。急に頭を揺らしたせいでガンガンするがそんなことは気にならないほど興奮していた。
……今の私から見ても、あのときの私はどうかしていた、もしかしたら薬草の中に間違ってマズイ物が紛れ込んでいたのかもしれない。もし、あの絶叫を誰かに聞かれていたら恥ずかしさのあまり首をくくっていた事だろう。森の中に住んでいて本当によかったと思う。
ダダダッ
書庫に向かって一直線でから魔物娘の図鑑を持ってくる。この森に住むときに、魔物娘に対抗できるようにと買ったものだが、そのあとすぐに気配を消す術を覚えたため、不要と思い読んでいなかった。
「…………」
本に穴が開くほどとよく言われるが、それくらいの気迫で読んだ。誰かが私の目を見ることが出来たなら、おそらく真っ赤に血走っていただろう。
「ふう…」
読み終わるのに半日以上かかり、すでに真夜中になっていた。尋常ではない集中力を発揮し、特徴はあらかた覚えることが出来た。今度は、どんな魔物娘がいいのか自問自答することとなった。どうせ、夜は暑くて眠れないのだ。夜を徹して考え続けよう。
しかし、どの魔物娘も魅力的で甲乙つけがたい、そのなかで人生の伴侶決めるのは非常に大変な作業である。ここは、消去法で地道に探していきたい。
……今の私から見ても、あのときの私はどうかしている。お前、選べる立場じゃないだろ?土下座してでもお願いする立場だろ?30過ぎのおっさんがなにを贅沢言ってるんだ? しかし、そのおかげで今の私がいるのでなんともいえない気分になる。
「まず、魔導師といってもそこそこの俺がどうにかできる相手じゃなきゃいけないな」
ドラゴンやバフォメットやヴァンパイア、いわゆる上級魔族に会うことなど自分の実力では至難の業である。仮に会えたとしても指先一つでダウンであろう。
「出来ればここに住み続けたいな…」
なんだかんだ言ってもこの生活は好き
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