ファラオ様ゲーム

「やったぁ!! 2番はあたしにゃん!」

「え、じゃあ、3番って俺か? つかいきなりなに言ってるん…?」鈴木

「王様の命令は絶対にゃりよ♪」

 スフィンクスの肉食獣のような恐ろしい視線が、3番だった鈴木に向けられる。縦長の瞳孔はすでに開ききっていた。

「にゃぁぁぁぁぁん
#9829;」ハムハム…

「や、やめろ!!…離せぇ!…」

 雄たけびを上げながら、鈴木の首元に飛び掛り組み伏せる。ジタバタと鈴木が暴れるがスフィンクスは体を巧みに使いこなし、しなやかに躱す。動物が止めを刺す様に何度か喉仏を甘噛みし、そのたびにビクビクと反応する獲物(鈴木)の様子を楽しんでいる。
 その状況を女性たちはどこか羨ましそうに目を輝かせ、男子たちは口を開けたまま固まっていた。

「やめろぉ…」

「やめにゃい♪」チュル…ジュル…

 鈴木の抵抗が徐々にか弱いものになっていく。ゆっくりと艶やかな唇が、鈴木のよだれが垂れて開ききった口を吸った。何かを吸い取るような音が密着した口内から聞こえると、鈴木の痙攣はさらに激しさを増していく。
 男性陣は未だに何が起こったのか理解できず、彫像と化している。

「た…す…け……」

 最後にこちらに腕を伸ばし助けを求めたが、いっそう激しくスフィンクスが責めたてると力尽きたように腕を床に落とした。

「ここじゃ、落ち着いて出来ないし。場所を移すことにするにゃ

よいひょっと、そへでは、おはひひまふにゃ〜」

「ごきげんよう、明日のお話が楽しみですわ」

 ぐったりとした鈴木の服の首襟を口に咥えると風のように店から出ていった。



「………あのぉ…二人はどうなったんですか?」

 やっと口が聞けたのは、この合コンを企画した山田だった。

「ここの近くに休憩所がございましたから、きっとそちらですわ」

 上品な微笑を崩さずに、こともなげにファラオが答える。

「あの二人なら間違いなくお似合いの夫婦になれますわ。
もちろん、ここにいる『全員』そうなるのですが、うふふ
#9829;」

「「………」」

「「………」」

 魔物娘達のギラギラとした気迫というか欲望というか、そういったものを湛えた瞳が耽々と男性たちに向けられている。

「……(や…山田ぁぁぁぁ!! な、なんだこれ!!これじゃ合コンじゃなくて強姦じゃねぇか!)」田中

「……(俺だってしらねぇよ!! まさかファラオが来るなんて思わなかったんだ!!)」山田

「……(どうすんだこれ!? 高校生で人生の墓場行きとか洒落にならんぜ?)」高橋

「……(俺だってもっと遊びたいわ!!)」山田

「……(前向きに考えようじゃないか…こんな綺麗な人たちとこれからの人生を過ごせるんだ、最高だと思わんかね!!)」佐藤

「……(正気に戻れ!! お前の目の前にいるのは犬と蠍とミイラと元ツタンカーメンだ!!)」田中

「……(黙れ!!貴様には魔物娘の良さが分からんのか!!)」佐藤

「……(喧嘩している場合か!! おい、それよりもこの合コンはいつ終わるんだ?)」高橋

「……(二次会はないことにすればいいから・・・お開きの8時まで後30分だ。
それまで乗り切ればなんとか…)」山田

「……(王様ゲーム自体をやめる事はできないのか?)」高橋

「……(流石にさっき一回だけで終わらせるとなると露骨すぎる、このまま時間まで続けるしかない)」山田

「……(んなのどうでもいいだろ!! さっさとやめさせろよ!! 
さっきから何だ、ビビって敬語でへこへこしやがって)」田中

「……(ならお前が言えよ!!)」山田

「……(え? お、おう…や、やってやるよ!!)」田中

 勢いよく立ち上がった田中は、キッとファラオを睨め付けたが、それも長くは続かない。いざ目が合うと勝手にファラオの威に圧倒されて、すぐに目を逸らしてどこを見てるかわからない。

「お……お…お…おお…」

 『王様ゲームなんてつまらないから他のをしようぜ』たったこの一言を言うだけでこの危機終わらせることが出来るのだが、その一言が言いだせない。壊れたCDプレイヤーさながら同じ音を繰り返している。

「どうされました?」

「お、おお、おお…」

「もしや、お体が優れないのですか?」

「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」ストン

 ファラオの涼やかながら凄まじい情念の篭もった瞳で射竦められた(と勝手に思い込んでいる)田中は、口から魂が抜け出たような、息とも声ともつかぬものを吐き出し自分の席に座りこんだ。その姿は先ほどと比べると幾分か小さく感じる。

「田中君の体調が優れないようだが、よかったら私が安静にできる場所に連れて行こうか?」

 とファラオの隣にいたメガネのアヌビス。声は心配そうだが、田中を見て舌なめずりしている。


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