「この素晴らしいまでの豊かな自然! お出迎えしてくれる愛らしい野生動物たち!
……最低だな」
グルルル…
現在地点は大森林入り口。森の中を窺うと昼間に関わらず薄闇に包まれている。時折よく分からない生き物の声が聞こえてくるため、非常に不気味な雰囲気を醸し出している。しかし、幸いなことに魔力自体は微量にあるものの、魔界やそれに準ずる地に比べれば浸食はそれほどでもない。これならば、しばらく森の中でも生活できそうだな。
ふと見ると狼(ワーじゃない)が周りを取り囲んでいる。普通の動物がいるということは何よりも良いことだ。食料に困らない。
「………さてさて、まずは寝床の確保と行くかね」
日はまだ高く上っているが、ここでうかうかしているとあっという間に夜になってしまう。夜になればワーウルフなどの夜行性の獣系の魔物がそこらじゅう跋扈することだろう。それらと一晩中戦うのもいいかも知れないが、流石にこの年でそんな事はしたくない。それに神経をすり減らして野宿するのはもうこりごりである。
森の奥に小さな洞窟のひとつやふたつはあるはずだ。とりあえず、それを探すのが今日の目標となりそうだ。見つからなければ木の上ででも寝るか。
さっそく森の中に入ってみることにしよう。
狼たちは、戯れて来たので一匹捕まえ、上顎と下顎を持って半分ずつに裂いてやると、さっさと行ってしまった。
………
……
…
「なんだ、案外あっさり見つかるもんだ」
森をしばらく散策していると、手ごろな洞窟が見つかった。ダンジョン程大きくもないようなので、ここを使うことにした。
「…綺麗すぎるな」
中に入ってみたが、コウモリの糞や蜘蛛の巣などが一切見当たらない。下も石などが端に寄せられて歩きやすくなっている。洞窟の奥を見てみると少し先に焚き火の跡まで見られる。
「はぁ……住人がいるならしょうがない」
何事もそう上手くは行かないということだ。気を取り直して別の場所を探すか。
…その前に洞窟の主どのに御用を伺うとしよう。
「俺に石化は効かないんじゃないかな、多分。
さっきから頑張ってるみたいだけど、疲れるだけだし、諦めたら?」
「………」
洞窟の闇から金色の双眸だけがはっきりと浮かんでいる。二つの光がだんだんと大きくなるにつれてズルズルと何か引きずる音が聞こえてくる。
「……何者よ? アンタ」
警戒のためか未だに暗がりから出てこない。強い二つの光の他に無数の小さな光がこちらをまんじりともせずに見据えている。ちょっと洒落た事を言わせてもらえば、夜空に星と二つの月が瞬いているようだ。
「これは失礼。わざと踏み荒らしたわけじゃないんですよね。
何者かというのを誤解なく説明するには、一時間はお話しなきゃいけなくなるけど我慢できる?」
「…じゃあ、アンタがここに何故来たのかだけでいいわ」
「引っ越してきたので新居探し、
もしかしたらお隣さんになるかもしれないんで、よろしく」
「信用できない」
随分バッサリ切り捨てるものだ。月の上半分が欠けてしまった。
「しなくても結構、俺もすぐにお暇しようとしていたところだし」
「そう、さようなら。
でも他に行く当てがあるの?」
「まだないね、時間もあるし気楽に探すよ」
森に入ってからそれほど経っていないし、探せばあるだろう。
「それなら、ここから一番近い洞窟を教えて上げるわ」ニヤッ
今度は下半分が暗くなり、上弦となった。
分かりやすく言えば、ただ単にニヤニヤと笑っているだけである。
「そりゃは助かる」
「ふふっ、森を抜けた山の中腹に洞窟があるわ。
私は寒くて使わなかったけど」
「……おじさん、冬眠しちゃうな」
「あそこだったら、春が来ても寝ていられるわよ?」
「勘弁願いたい」
「それならここらへんに住めるような所はないわね
さっさと人間のいる町に帰ったら?」
「出来たらそうしてるよ」
「そう、ならそこらへんにいるワーウルフやアルラウネにでも助けてもらう事ね」
「遠まわしに死ねと仰るのがお上手なことで」
「いい〜じゃない、たかだかインキュバスに成るだけですもの」
「実際そうなんだろうけどさ、
ほら俺勇者だから、世間体とか体裁とか気にしなくちゃいけないし」
「……えっ、勇者!?」ズザッ
さっきまでニヤニヤと笑っていたであろう目は大きく見開かれ、
薄っすらと輪郭だけ捉えることの出来ていた体は、バネが弾けたように俺から遠ざかった。
「……う、嘘言わないでよ!! ゆ、勇者だって証拠があるの!?」
「勇者じゃなかったら、石化が効かないとかありえないでしょう……?」
「…そうなの?」
「そうなの」
「個人差とかじゃなくて?」
「…他の人はどうだっ
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