「いい加減働こうか…」
特に理由はない。強いて言うと飽きだ。今の生活に不満もない。静かに魔法の研究が出来ることは幸せだ。しかし、休暇にしてはあまりに長すぎた。
森の奥にひっそりと佇む小屋の中で、いい加減飽きてきた隠遁生活に終止符を打つべく一人呟いた。一人暮らしだと独り言が多くなってしまうのだ。
「そうなると問題は…神と魔王どちらに付くかだな」
魔王交替から数十年、世界も劇的に変わった魔物達に徐々にだが慣れ始めてきた頃だ。初めは、こんな有様では今回の魔王はあまり長くないだろう、と思っていたが数十年で魔王の中でも最大の版図を築き上げた。
それどころか、神に対抗するため完全に人間を滅ぼすつもりらしい。これを聞いた時は、ついに世界も終わりかと思ったものだが、方法が方法なため拍子抜けしてしまった。
「やってることは魔王の方が好感持てるが…俺が必要とされるのはむしろ主神側か?」
お前は何様だと思われたところで自己紹介と行こう。
名前は別に興味ないだろうから割愛する。種族は人間。今の職業は魔導師。昔は勇者であったが魔王側に裏切る。同じく勇者であった兄弟達といっしょに国を攻め落としてその一帯を治めていた。
裏切った理由は単純明快だ。勇者であるが故に、教団の派閥争いに巻き込まれ暗殺されかけたのだ。それに憤慨した兄が
「もういい!!教団のパッパラパー共に泡吹かせてやる!!」
というわけで反逆した。その後、敵の敵は味方ということで魔物と手を結んだという次第だ。
なぜそんな奴が今も生きてるかというのは
これまた単純明快だ。魔物と交流があったおかげで、延命の方法や不老の術など知ることが出来たからだ。『人魚の血で100倍!!それに200倍寿命が延びる魔法を組み合わせて20000倍だぁぁぁ(兄談)』らしい、実際、今もこうして生きているためあながち嘘ではないのかもしれない。
その後、平和に国を治めて暮らしていた俺達だが、魔王交替劇のせいで散々な目にあった。派閥争いに関わるのは懲りたので、魔物の身内での争いには関与していなかった俺達だが、今度はそれが裏目に出た。魔王交替に因る魔物娘化に、全く対策を行って来なかったのだ。魔王交替によって変化した家臣の魔物達は、男性を求めてどこかに飛び立っていった。また、人間の家臣も数多く居たが変化した魔物娘達に捕まってしまい、誰一人として城までたどり着けなかった。魔物娘の中には、残ってくれるものも居たが、家臣の大半を失ってはどうしようもなかった。そのため、魔王に国を献上し、俺達兄弟は各々旅をすることにしたのだ。
そして今に至るというわけだ
長い? 何を言うか、誰でもこれくらいのドラマがあるのだ。君達も父さんと母さんに二人の出会いを聞いてみるといい。案外とんでもないことが聞けるかもしれない。
「いや、もう神とか魔王とか関わるの止めるか、もっと慎ましく普通の職業にするべきだ」
そうなると何が良いか…
「…たまには人に仕えるというのもおもしろいかもしれんな」
今まで神に仕えるとか国民に仕えるとか口では言ってきたが、基本的に好き勝手やってこれた。一度くらい本気で仕えるというものをしてみようと思う。
「そうすると行くところは決まったな」
身支度を済ませ、長年暮らしてきた森の我が家に別れを告げた。
「王者の帰還……なんてな」
30日間の旅を経て、昔住んでいた城の城下町に到着する。転移魔法を使おうと思ったが、それでは味気ないため徒歩で来ることにしたのだ。旅の途中でいろいろと話を聞くことも出来たので、無意味ではなかった。
久しぶりの第二の故郷である。しかし、たかだか数年で国の様子もすっかり変わってしまった。まず第一に目に入るのが宿と娼館の多さだ。今の魔物らしい特徴だ。
その宿や娼館の呼び込みをしているのはサキュバスである。人間離れした美しさ、というのを地で行く容姿だ。
「そこのかっこいいお兄さん!!ちょっと寄ってかない?」
そのサキュバスの一人に声をかけられた。普通の人間ならば魅了されてしまうところだが、魔物の魔力にはそれなりに耐性がある。ちょうどいい機会だ、魔物娘除けの結界を試してみるか。
「すまないが、妻がラミアでな、勘弁してくれ」
「あれ!?番が居るの!?あっホントだわ!ごめんなさ〜い間違えちゃった」
「あんたと話してても怒られそうなんだ、じゃあな」
「は〜い奥さんと仲良くね」
「もちろんだ」
「 いたら だがな」
なかなかの出来映えだ。近くの魔物娘に番がいるように錯覚させる結界だが効果が実証されたようだ。わざわざこのために既婚インキュバスたちに高い金を払って調べたのだ、これく
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