腰から羽が生え、角と尻尾がある化物。
蜘蛛の体に人間をくっつけたような化物。
下半身が蛇の化物。
青い羽を持った化物。
それぞれが何を思っているかわからないが座ったまま動かない。
「たかだか数匹のために2000人の捕虜を返すとは魔物というのも豪気なものだな」
「全くだ、豪気と言うよりも勘定もろくに出来ない馬鹿ばかりなんだろう」
「違いない」
「「ハハハッ」」
何が可笑しいのか、こちらは2000人も虜となり、今も魔物の手によって残虐な仕打ちを受けているのだ。それに対してこちらの戦果といえば捕虜4名。絶望的な差である。
「お前ら、そのたかだか数匹が逃げ出してみろ
我が軍の勇士二千の首が飛ぶことになるのだぞ?
無論、私達の首も・・・な」
「「………」」
兵士二人は、急に不機嫌そうな顔して黙りこくる。敗戦続きで気持ちが鬱屈しているのは分かるが、非常に腹が立つ。
「それにお前達は初めてでわからないだろうが、この仕事は戦場で戦うよりもずっと危険な仕事であることを自覚しろ」
「ただ見ている仕事が ですか?」
片方の兵士が軽蔑を隠そうともせず問いかける。
…こいつはもたないな。
「1ヶ月に10人」
「はぁ?」
「…行方不明になる看守の数だ」
「そんなわけ……」
「記録を調べればすぐに分かる」
「で…でもどんなふうに…?」
「ここを脱走するんだ、何も持たず忽然とな。故郷に帰ったんだと言うやつもいるが、脱走したやつがどこかで見つかったことなんて一度もない。これがどういう意味か分かるな?」
「ま…魔物に魅入られた……」
「そうだ、そいつらは今頃魔物の腹の中だろうな」
「あら、私達が食べるのは、貴方達が出す白い液体だけよ?」
急にサキュバスが話しに割り込んできた。その声に一毛の失意などないように思えた。
「体に毒を流し込んでどろどろになった体液を啜るのか
蜘蛛やヤゴなら聞いた事もあるが…魔物も同じだとはな…」
「虫なんかと一緒にするなんて酷いわねぇ…
そんな怖いことしないわよ。もっと気持ちの良いモノを食べるの…
#9829;」
壁を向いて座っていた体をしなやかにこちら側に向ける。
その一挙一動が男性の劣情を刺激し理性を失わせるに足るものだった。
しかし、私はこの女の正体を知っているのだ。人間に陵辱の限り行い、人の尊厳を奪った後に食い殺す化物だ。私の友人が何人もそうやって襲われ帰って来なかった。
「…じゃ…じゃあ、町で噂になってることってホントなのか…?」
兵士の片方がサキュバスの話しに食いついた。捕虜になって帰って来た兵士が町の中で流している悪質なデマだ。情けない限りである。あのような事を言いふらすならば死んでいればよかったのだ。
「あら、どんな噂かしら…?」
艶美に微笑むサキュバス。その表情は獲物を捕らえる間際の鷹のような鋭さがあった。
「魔物の食料は精液で、そのために男を攫ってるんだって…」
「えぇ…そうよ、貴方も攫ってあげる?」
およそ人間では出せそうもない色香が漂う
立ち上がり、口の端を微かに上げながら我々に近づいてくる。
「くだらない話はそれまでにしろ!!!
貴様もそれ以上近づけば不審行為と見做し殺す!」
剣を抜き、剣先を突き付けサキュバスを威嚇する。この化物どもに少しでも気を許してはならないことを忘れていた。
「はいはい、こんなところで殺されちゃ堪らないわ」
おどけて両手を上げながら2、3歩後ろに退いていった。
「でもそこのお兄さん、もし魔物に興味があるなら私が教えてあげるわ…
#9829;」
「………」
片方の馬鹿が気の抜け切った顔で淫魔を見ている。こいつはもうダメだ。
もう片方はその様子を見て危機を察したのか顔を逸らしそちらを見ないようにしている。
私は私の仕事を全うするだけにしよう。
「捕虜の交換は3日後の朝に行われる。それまでは我々三人で交替しながらこいつ等を見張る。分かったな?」
「わかりました」
「………」
馬鹿はもう何も聞いていないらしい。
「貴様は今から朝までこいつ等を見張ってろ。朝になれば俺が交替に来る、いいな」
「…………はい」
か細く聞き取れそうもない返事が辛うじて聞こえた。
「では、私達はこれで戻る。いくぞ」
「あ、はい…」
棒立ちでサキュバスに見惚れ続ける馬鹿をおいてもう一人と共に部屋を出た。
「ふふっ、アナタだけ置いて行くなんて…気を遣ってくれたのかしら?
さぁ、こっちに来て私と一緒にキモチイイことしましょ
#9829;」
「あ、あぁ…」
フラフラとサキュバスの元に向かって行く兵士。本来掛かっているはずの牢の鍵は掛
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