暗く、湿った空気が漂う地下室。
そこには魔物を拷問する者がいるという。
彼に掛かれば、どんな魔物の心も折る事が出来ると言う。
それを利用するものは多い、教会を始め、貴族、魔物に虐げられた村、そして個人ですら依頼する者がいるという。
「……だからって、俺が捕獲までやらなければならない?」
全体的に暗い印象を持つ男は、草木をかき分けながら前に進む。彼の名はアッシュ・ランバード。調教、拷問、尋問を専門としている者だ。
彼に依頼したのはある貴族だった。依頼内容はとても長く、回りくどかった。貴族特有の見下げた態度がする手紙だった。
手紙の内容を簡単に要約すれば、『ベルゼブブの能力でここまで這いあがる事が出来た。これ以上は魔物はいらない。連れて帰って処刑せよ』とのことらしい。
たったこれだけを伝えるために、高級紙を10枚も使う。アッシュには信じられないことだった。用件だけを伝えればいいのに、不効率極まりない。
今回は捕獲、輸送、調教、処刑といつもよりやることが多い。
しかも、捕獲する魔物があのベルゼブブだという。高速で動き、非常に強い力を持った魔物だ。下手なものを同伴させれば被害が出ると踏んで1人で来た。
それに伴い、ベルゼブブを引き寄せるために風呂に入っていない。水浴びすらしていない。1週間ほどで自分の臭いで気分が悪くなり、3週間を超えたところで鼻が麻痺した様だった。
こうしてベルゼブブが出るといわれた森を彷徨って1カ月を超えた。きっと城に残っていた魔物たちは残らず処刑されてしまっただろう。
「なんで俺がこんなことを…」
予定よりも大幅に時間をとられたことに苛立ちを抑えられなかった。八つ当たるように草木をかき分けて進む。そして同じ場所に出る。
迷ったふりをするのも楽ではない。わかっているとはいえ、同じ場所をグルグルと回るのは心理的に来るものがあった。
「これは拷問の一種だな」
ベルゼブブを捕まえたら同じ苦痛を味あわせてやると心に決めてさらに迷ったふりをする。
「……ん?」
葉っぱを動物のように食べていると、小さい音が聞こえた。
ブーン
確かに聞こえる。
「やっと来たか・・・」
そう思った瞬間には、手に持っていた食事(葉っぱ)をとられていた。もちろん、反応できなかったのではなく、反応しなかっただけだ。
「へっへーん! のろまー!」
得意げに奪ったばかりの葉を見せびらかすベルゼブブ。子供っぽく、言葉使いから精神的な年齢が低いことを察する。
「はぁ」
「ム! なんだよ、盛大なため息なんてついてさぁ!」
「おい、これ」
さっきすれ違った瞬間に、ベルゼブブから奪い取った髑髏の髪飾りを見せつける。ベルゼブブは慌てて自分の頭を確認し、アッシュが持っているものが自分のものだと分かった瞬間に顔を真っ赤にした。
「わ、わざとに決まってんだろー! 人間のくせに!」
「じゃあいらんのか?」
「返せ!」
「なら取り返してみろ」
「……いったな?」
急激に体温が下がったように感じた。ベルゼブブの体からは魔力が溢れ、紫色のオーラのようなものが出ている。
「来いよ」
「ボクは蝿の王ベルゼブブ、ヴィベル・ガナス。お前も名乗りなよ」
「お前が勝ってから聞くんだ……な?」
言い終える前に持前の高速移動でヴィベルが突っ込んできた。
直撃すれば死、避けても羽の衝撃波で怪我は避けられない。斬りかかろうにも甲殻がある腕でガードして効かない。単純かつ必勝の攻撃方法だ。
「死ねぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
「青いな…」
アッシュの取った行動は単純だった。姿勢を低くして攻撃をやり過ごし、すれ違う瞬間に無防備な腹をけり飛ばす。それだけだ。
「ぎゃぷぅ」
ベルゼブブの必勝法の体当たりには致命的な弱点がある。羽がない場所には衝撃波が来ない。だからしゃがむだけ。
単純だが難しい方法だ。当たる直前まで姿勢を高くしなければ、自分がしゃがむスペースは作れない。だからと言って直撃すれば死んでしまう攻撃に対して、姿勢を伸ばすことができるだろうか。
最初から度胸も実力もアッシュが上回っていただけの話だった。
「捜索時間がかかりすぎだ……クソ」
魔法で強化した縄を使い、抜け出る事が出来ない様にしてから運び始める。思ったとおりヴィベルの体は軽く、背負って歩くのにそれほど疲れなかった。
アッシュは表面上はいつも通り暗い顔をしているが、内面では怒り狂っていた。
城に帰るまでアッシュはヴィベルに見向きもせずに帰路を急いだ。ヴィベルと話せば、その場で殺してしまう自信があったからだ。
しばらく外出していた城は懐かしさを
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録