「生きてる?」
目を覚ましたヴィベルが開口一番に発した言葉。
彼女自身はあの場で殺されたと思ったのだ。走馬灯すら見たのだ、無理もない。
「もう、痛いのは、いやぁ……」
横たえていた体を持ち上げ、背中を確認した。
「……半分無くなってる」
自慢の羽が半分になっていた。あの時に切られてしまったのだろう。
羽をなくしたことは悲しかったが、それ以上の恐怖が体を満たしていた。何もしていないのに体が勝手に震えている。
死にたくなるほどの痛みがやってくるだろう。だが、彼女に死ぬ勇気はなかった。
いつもの牢屋だ。カビや血や腐った臭いのする部屋に帰ってきたのだと、再確認して静かに涙を流した。感情を爆発させたものでなく、心からの絶望の涙だった。
何故自分がこんな目に合うのか、どうして? そんな思いが頭をめぐっていく。
抵抗する気力はなかった。
ただぼんやりとベッドで過ごすだけだ。
そのうち、誰かが近くにいることに気がついた。顔をあげるとカーミルが立っていた。
「何か用?」
「来い」
言われるままに立ち上がる。カーミルの後ろについていった。
歩いているはずなのに視界がぼやけるようだった。自分が自分でないような感覚。
連れて行かれた場所はとても熱いところだった。
ハンマーで赤くなった鉄が叩かれている。それは剣の形をしていた。剣を作っているのはサイクロプス。一目で集中しているのが分かる表情だった。
青白い肌、大きな1つ目、額の中心にある角。神の血を受け継いでいるといわれているサイクロプスすら手中に収めている。驚くべきことだった。
「…来たか」
アッシュも続いて入ってきた。いつも通りの暗い表情。ヴィベルはわずかに背筋が寒くなった。
「主人、連れてきたが……もしかして」
「カーミル。黙れ、余計な事を言うな」
「了解だ。私は行くぞ、胸糞悪いものは見たくない」
尻尾を揺らしながら、眠たげな眼でアッシュを一睨みしてからカーミルは部屋から出て行った。ヴィベルはまだここで何をされるのか理解していなかった。
「おい、イム。奥を借りるぞ」
「…………ん」
サイクロプスはイムという名前らしい。
アッシュはヴィベルの背中を押して奥の部屋に入った。そこはおかしな台が真ん中に置いてあった。四つん這いで固定する台にヴィベルは繋がれた。
「何を……するの?」
今まで半分マヒしていた恐怖が返ってきた。震えながら、首だけでアッシュを見ている。
「おまえ、感情を封印しようとしただろう? 何も感じなくなろうとしただろう? それじゃあ拷問しているこっちからするとつまらないんだよ。苦しんでもらわないとな。だからショックを与えて元に戻そうとした。まあ、やる前に戻ってきたみたいだがな、用意したついでにやらせてもらう」
「な、なにを?」
普段の数倍も饒舌なアッシュに言いようのない嫌な予感がした。何故なら笑っていた。
拷問の最中ですら無表情のアッシュが笑っているのだ。
ヴィベルはアッシュが取り出したものを見て完全に感情を取り戻した。
「や、や、やあああああああああああ!」
柄の長いハンマーだった。ただし、打つ場所が真っ赤に焼けている。何をするか、やっと理解した。
「残った羽が邪魔だな」
ハンマーを一旦置き、懐からナイフを出す。あの時ヴィベルの足を刺したナイフだった。それで半分になっていた羽を皮膚ごと削った。
「ひ、ひぃ、ひぎぃぃぃ、ギイィィィああああああああああああああ!」
「これくらいで騒ぐな。……もう片方も」
「ああああああああぎあいあああああ!」
ザリザリと血管が切れる音が聞こえた気がした。アッシュは切り落とした羽と皮膚を足元に捨てた。見覚えのある羽が、真っ赤になって落ちていた。
「私の……羽ぇ」
「安心しろ、2度と生えないようにしてやるから」
「ヤ………ダ。何でも……何でもします! だから、ゆ、許してください!」
ヴィベルを無視するように真っ赤になったハンマーを持ち上げる。
アッシュは何を思ったか、切り取ったヴィベルの羽を拾い上げた。そして皮膚の部分を食いちぎる。
「…見ろよ」
唾でも吐くように、食いちぎった皮膚をハンマーの先に飛ばす。
ジュウウウウウウウ…・・・・
一瞬で焼かれ、肉が焦げた臭いが漂ってきた。
「やあああ! やだあ! やめてぇ! なんでも、なんでもするからぁ、やめてええ!」
恐怖に駆られ、暴れるが、一向に身を焼かれる瞬間は訪れない。恐る恐る目を開けると、アッシュが【微笑んで】いた。
「……え?」
「やめてやろうか?」
今まで見たことがない微笑み。
「やめて……くれるの?」
アッシ
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