報告書「ワーバット」(下)

 朝、日が昇る前に目が覚めた。

 胸が苦しくて、目が回る。気持ちが悪い。

 こんな目覚め方は初めてだった。

「ぅぅぐ……ああああああああ!」

 頭をかきむしったり、ぶつけたりしても収まらない。

 どうしてだろうと考え、あの薬のせいだとわかった。

 鉄格子に寄りかかり、あいつが来るのを待つ。

 見渡せば、手の届きそうな場所に薬がある。あれがあれば楽になれる。必死になって手を伸ばしてから気が付く。

 これはアイツの罠。こうして自分で薬を使わせるつもりなのだ。

 わかっていても、震える手は薬を求めている。

 砂漠でカラカラに乾いているところで水があったなら、例えどんなものでも飲んでしまう。そんな感覚に似ていた。

 いくら限界まで延ばしても届かない。あと数センチというところで止まってしまう。

「ア゙ア゙…・・・ア゙」

 獣のうめき声をあげながら、肩に鉄格子をめり込ませて腕を伸ばす。

「と、とどいた!」

 肩から何やら音が響いたがそんなものは関係ない。急いで封を開け、中に入っている粉を口に含んだ。

 苦いような、甘いような、何とも言えない味が広がってだんだんと楽になっていく。

 それからひどく後悔し始めた。

「なんで、罠だってわかってるのに……」

「それが薬の力だ」

「っな!!」

 いつの間にかアイツが立っていた。

「途中から見させてもらった。ずいぶんと効き目がいいみたいだな」

「う、うるさい!」

「だが、昨日散々お前につかったからな、その程度の量では30分も持つまい。どんな無様に薬を欲しがるか楽しみだ」

「も、もういらない! 近づくなぁ!」

 牢屋の隅で丸くなる。

 私は恐怖している。アイツが怖いわけではない。薬が切れてしまえば、どんな無様なことでもするだろうと自分で分かっているからだ。

 麻薬。それを甘く見ていた。殺されてもいいから最初の時にもっと抵抗すべきだったのだ。

「目の前で自慰をすれば1回分の薬をやろう」

「だれが、そんなこと!」

「そうか、もしする気になったら呼べ。本でも読んでいるさ」

 そう言うと、アイツは椅子に座って本当に本を読み始めた。こっちのことなんか見向きもしない。

 舌打ちしてベッドに入り込む。眠っていれば大丈夫かもしれない。そんな根拠の無いことに希望を持つほどに私は追い詰められている。

 眠る前に切れてしまった。

 だんだんと落ち着かなくなって、イライラしてくる。まだ呼吸は苦しくなっていない。それが救いだった。薬をもらえればあの感覚は来ない…

「ちくしょう、何考えているんだ、私は」

「無理をしないほうがいい。禁断症状が出てからだと満足に自慰ができなくなるぞ」

「……ぅるさい」

「なら、チンポぶち込んでくださいって言え。それでチンポと薬を打ってやるぞ」

 全く笑えないジョークだ。だけど、それに対して何も言えないほどになってきている。

 チンポも薬もいらないのに、そっちに目線が行ってしまう。

 言えば……ラクに…………

「…めよ…」

「ん?」

「サッサとぶちこめよ……最初からそれが目的なんだろ?」

「なんだその言い方は? それじゃあダメだ」

「ふ、ざけ、るなよ!」

「それに友達のアリア、だっけか? そいつのために薬には負けないんじゃなかったのか?」

「……ぁ」

「薄情な奴だな、薬欲しさに死んだ親友を忘れるなんてな……」

「ああああああああああ!」

 私はそれ以上聞いてられない。蹲って叫んで、アイツの声が聞こえないようにする。

 けど、それを許してくれない。腕をつかまれ、耳元でささやかれる。

「欲しいんだろ? 居なくなった奴の事なんかどうでもいいくらいに……だから耳をふさぐ。自覚したくないから…」

「ヤダヤダヤダヤダ」

 まるで毒の様に染み込んでくる悪魔の囁き。

 何かがポッキリ折れてしまったような感覚。

「言えよ……」

「ぅ……うぅぁ…………さぃ」

「ん?」

「チンポ……くださいい!!!!」

「チンポだけでいいのか?」

「薬も、チンポもぶち込んでくださいいい!」

「いい子だ」










「主人、終わった?」

 カーミルが様子を見にきた。

「あぁ、終わった」

「あー……おくすり……ちょうだい…おちんちんもぉ、もっといっぱいちょうだいぃ」

 うつろな目、だらしなく開いた口。太いバイブを入れられながら苦しそうにしている様子はない。

「……馬車の準備をしてくる」

「あぁ」

 カーミルは何も言わずに出て行く。

 アッシュはアネットの首をつかんで引きずる。向かう場所は町長の部屋。ノックもせずに部屋に入ると、彼は驚いた顔をする。

「おや? ソレは……私は殺してくださいと頼ん
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