「さて、これからお前を痛めつけるわけだが…」
鞭を左右に、顔の前に垂らしながら勿体ぶる。私は気を強く持とうとするが、自然と男の持っている鞭の方へと目線が行ってしまう。
それに気が付いているのか、男は口の端をゆがめた。
「…ック。それがなんだってんだよ!」
声が震えるのを隠しきれない。だから大声をあげた。そうしないと心が折れてしまいそうだったから。
「盗った薬はどの程度だ? どうせ抱えるほどだろう?」
「フン」
こんな屑に場所を教えることもない。私は目線も合わせずに黙殺しようとした。
「そんなに麻薬がほしかったのか、それとも売り捌いて金が欲しかったのか。あさましいな」
「そんなはずないだろう!」
つい、カっとなって叫んだ。泥棒扱いもいい、罪人扱いでもいい。それでも麻薬を売っていた連中と同じに見られるのだけは我慢できなかった。
はっとして顔を下げるが後の祭りだ。男は納得するように頷いた。
「まあ、どうでもいいことだがな」
鞭を振り上げる。それがスローに見える。
バシィン!
「……ぁ、ぐ」
叫ぼうとしたが、声が出なかった。鞭で叩かれるなんてこと、今まで経験したこともないから。
「どうした? まだ一発目だぞ?」
挑発している。それが私の抵抗心に火をつける。歯を食いしばり、睨みつけてやった。
「ぬ、ヌルイね…それがどうした?」
これがささやかな抵抗、私からこの男にできる精一杯。
腕が振り上げられる。私は歯を食いしばる。叩かれる。そんな事が何度か続く。
「もう限界か?」
「ッギ……ぅ。ぁ…そ、そんなはず……ゥァ……ないでしょ!」
バシン! バシン!
悲鳴を上げないことで、屈指はしないと意思を示す。だが、淡々と作業のように鞭を振るってくる。涙があふれるのは止められなかったけど、意地でも悲鳴なんか出してやらない。
息が乱れる。体中は赤い蚯蚓腫れから血が出ている。
「苦しそうだな」
いったん手を止めた。時間の感覚がない。ずっと叩かれていた気もするし、すぐに終わった気もする。
「う……るさい。何でこんなことするのよ」
こちらから質問する。すぐに再開されるのがいやで、時間を稼ぎたかった。
「暗い場所では弱音は吐かないか…」
そう言うと、部屋に明かりを灯し始める。明るくなるにつれ、体が震えてきてしまった。
「や、やめて…」
「何か言ったか?」
睨まれる。たったそれだけで何も言うことができない。さっきまで文句を言ってくれた口は動いてくれない。それよりも大きくなっていく恐怖でどうにかなってしまいそうだ。
「…ぁ」
「この状態で叩くとどうなるんだ?」
そんな事を言われたって分らない。持っている凶器も、睨んでくる顔も、動きを封じる拘束具も怖くて仕方がない。
あぁ、鞭が降り上げられる……イヤ、痛いのはイヤ……振り下ろされ……
バシィィン!
「キャアァァァァァ!」
痛い痛い痛い! さっきより痛い! もうイヤ、痛い。
「そうか、泣くほど痛いか」
両目からボロボロと涙が出てくる。私は必死に顔を振る。許してもらえるかもしれないから。
「痛いの、痛い。痛いのヤなの…」
すぐに殺されると思っていた。それで恨みながら死のうと思っていたのに、こんなことになるなんて。
「面白い事をしようか?」
顎をつかまれ、上を向かせられる。カチカチとかみ合わない口。
「痛いの…はイヤァ」
「痛くはないさ」
そこで、さっきのワーウルフが帰ってきた。
「主人、見つけた」
「思ったよりも早いな。どうせ床下にでも隠してあったんだろう?」
「正解」
その言葉を聞いて凍りついた。隠した麻薬を見つけてきてしまったらしい。
「おい、今の話を聞いていただろう? 何をされるか察しがついたか?」
もしかして……ぁ、麻薬を広げて………やめて………それを近付けないで……
私は息をとめた。そんなものが私の体に入ってくると思うだけで鳥肌が立つ。
「主人、私は言った通り帰る」
「宿屋で寝てろ、すぐに終わる」
取り出したのは、注射器?
私は息を止めたのが無駄だと悟った。体に直接入れるつもりだ。
水で溶く、注射器に入れる。軽く振って中の空気を抜く。その1連の動作は滑らかだった。
「いや……ヤァァアァ!」
暴れようと思っても、拘束された体じゃ何もできない。腕をつかまれ、そのまま悪魔の薬が私の体の中へ入っていく。
「すぐに良くなるさ。これはそういう薬だからな」
「ウゥ……」
使い終わった注射器をしまい、袋に残っている薬をなめる。
「思ったより上質らしいな。」
服を脱いで体に触れてくる。その嫌悪感よりも先に、視界が揺れ始めて
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