「依頼か」
アッシュの部屋でふんぞり返っているブタ…もとい、ギースはワインを水のように飲みながら頷く。最近は涼しくなってきたので、滴るほどの汗は流れていない。
「その通りだよ、アッシュ君。北の方にある町なんだが、そこは最近増えてきた魔物と人が共存している町でな。そこである事件が起こったのだよ」
「ふうん」
ワイングラスを揺らし、波打つ赤い液体を見ながら聞き流す。
「口を割らないだのなんだの、よく分らんがね。そこで君の出番というわけだ」
「共存しているんじゃなかったのか?」
「だからこそ、魔物も法に守られている。まあ、それでも魔物差別者が多いのは確かだ。だから自分がやったという証言がなければ刑罰を与えることができないのだよ」
今回の依頼は、捕まえた魔物が犯人であろうとなかろうと、無理やり自分がやったと言わせるために拷問をやるということらしい。
「いつもと変わらんな。北にある町か」
「あぁ、頼むよ。内容はよく知らん。依頼書に詳しく書かれているから読むといい」
「この城に連れてこないということは、俺自ら行けということか」
「もちろん」
アッシュは面倒くさそうに立ち上がり、依頼書を受け取った。それに満足したようにギースも立ちあがる。それを見てアッシュは首をかしげた。
「珍しいな、すぐに帰るのか」
「ブフ。まあ、最近隣国と近々戦争になりそうだからね。わしも忙しいのだ」
むしろ早く帰れ、と思っていても、そんなことは顔に出さずにアッシュは適当に相槌を打った。
宣言通り、ギースは本当に忙しいのか、馬車に乗るとすぐに出て行ってしまった。
「主人、ブタは帰ったのか?」
ギースがいなくなってから出てきたのはカーミル。種族はワーウルフだ。目は眠そうだが、周りを警戒するように時々耳が動いている。
「あぁ、忙しいらしい」
「そうか、うん。じゃあ、今回の依頼は?」
依頼書を興味深く見ている。鞭を振るえる機会があるなら付いて来る気だろう。
「……魔物に『自供』を促す仕事だな。ついてこい」
それを聞くと、カーミルは口元を歪めた。魔物を痛めつけるのが楽しみでしょうがないらしい。ちなみに、カーミルは痛めつけるのは好きだが、切断したり、焼き鏝をつけるのは嫌いらしい。後に問題が残るのが気に食わないらしい。
だからヴィベルの羽を切断するとき、不機嫌になったのだ。
「じゃあ、荷物の準備する。どうせ明日出発?」
「ついでに、俺の荷物もやっておけ」
カーミルは軽く手を振って部屋から出て行った。それを見届け、机の引出しに隠すように置いてあった薬を取り出し、ワインを水代わりにして飲み干してベッドに入った。
朝になり、馬車まで用意したカーミルが声を上げる。
「主人、準備できた」
馬車に乗り込み、皆が揃っている方へ顔を向ける。
「留守は頼んだぞ。 カーミル、出発しろ」
「了解」
パシーンと鞭を叩き、馬車を急発進させる。いつものことなのか、アッシュは驚きもせずに、顔を下げて眠り始めた。
カーミルは割とスピード狂なところがある。乗物の速度を出さずにはいられないのだ。この調子なら、夕刻には目的地へとつくだろう。
アッシュは今回の仕事のことを考えた。
ワーバットへの自供のための尋問。物を盗んだという。だが、物を盗んだ程度で尋問に掛かるのはおかしい。おそらく、他に言いたくないことがあるのか、紙という媒体に残すのがまずいのか。ともあれ、直接聞くしかないようだった。
「主人」
スピードを出しながらカーミルが話しかけてきた。
「運転中におしゃべりとは、珍しいな」
「体の調子は?」
「悪くない。そういうお前は中々良さそうだな」
当たり障りのない会話にも思えるが、カーミルは基本的に関係ない話はしない。このように聞いてくるということは、何かしら思惑があって話しかけてきたのだ。
「茶化さない。ゴミ出しの時に、大量の薬の瓶があった。ラベルが張ってなかったけど、何の薬?」
有無を言わさないような低い声だった。
「……黙れ」
それを、さらに低い声で拒絶した。
これ以上言っても無駄だと感じたのか、それとも命令に従っただけなのか、カーミルはそれっきり話しかけてこなかった。
それから到着するまで、2人の間には見えない壁が存在しているようだった。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
町に着くと、笑顔を張り付けたような、胡散臭い男が2人を出迎えた。
「尋問師として呼ばれたアッシュ・ランバードだ」
「はい、わたくしは町長のオーデル・ニクレッペンです。立ち話もなんですし、屋敷へと案内しますよ」
お互いに握手をする。それからすぐに歩き出す。魔物と共存
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