カーミルはアッシュに呼ばれ、部屋にやって来ていた。
「何か用か、主人?」
アッシュは何やら書類のようなものを書いていて忙しそうだった。
「今回の調教、お前に任せよう」
「シャル?」
「そうだ」
手は休めないまま判子を押したり、新たに記入している。
「主人は?」
「少しの間、戦争に行ってくる」
アッシュは調教だけでなく、時々こうして戦争に行くことがあった。その戦闘能力を買われ、破格の値段で雇われる。
それは同時に、その値段を出しても惜しくない戦争。それだけ危険だということだった。
「了解。私に任せろ」
「俺が死んだら地下の金を持って出て行け」
何度も繰り返された会話。だが、アッシュのことを信頼しているので死ぬとは思っていない。
「死んでくれると助かる」
「……ッフ、任せたぞ。明日に出発する。好きなように調教しろ」
「私好みの娼婦にする」
「必要な薬は全部揃ってるはずだ。足りなかったら作るなり購入するなりしろ」
「了解」
言うことは言ったとばかりに書類に集中し始める。カーミルは邪魔しないように出て行った。
その頃、ワーラビットのシャルは眠れないでいた。
彼女は大きな町に住む魔物。彼女の家はとても貧乏で、その日の食事にも困るありさまだった。体を売るのは自然な流れだっただろう。
森で暮らしていたなら食べ物は見つけられただろう。だが、町で暮らす以上、お金がなければ食べていけない。
「……ふぅ」
何度めの溜息か分からない。
娼婦という職業があまり良くないことだとは知っている。でも、娼婦がどんな事をしているかまでは知らなかった。
「ママ」
やわかいベッド、たくさんの食事。それらは今までなかったものだった。だが、それよりも母親に会えないほうがずっと苦しかった。
コンコン
返事をする前にドアが開く。
「やはり眠れないか」
カーミルがトレイにティーセットを乗せて入ってきた。
「こ、こんばんわ」
ワーウルフとワーラビットは相性が少し悪い。何もしていないのに、恐怖してしまうのだ。
「今日は何もしない。眠れないなら…」
お湯が注がれ、ハーブのいい香りがする。
それを差し出し、すぐに距離をとる。自分が彼女を怖がらせていると理解しているからだ。
「…ありがとうございます」
「これを飲めばゆっくり眠れる」
「うん」
この優しい言動とは裏腹に、カーミルは興奮していた。
どこもかしこも小さく、白い外見に赤い眼。嗜虐をそそる表情。今すぐ押し倒し、痛みで顔を歪めたい。そんな衝動を必死に抑えていた。
「明日から始める。早く眠るといい」
これ以上ここにいたら自分を抑えられなくなる。そう判断し、カーミルは足早に去って行った。
残されたシャルは運んできたティーカップに口をつけ、ゆっくりと飲んだ。
「…おいしい」
温かい飲み物を飲んで落ち着いてきたのか、だんだん眠くなってきた。
「ふぁ」
しばらく緊張で眠れなかった分、泥のような眠りに身をゆだねた。
朝になるとシャルは自然に目を覚ました。
目を手の甲で擦り、ウンと背筋を伸ばす。
「ん〜・・・・」
しばらくボーっとしていたが、ここがどこがか思い出して飛び上った。
「そうだ。わたし・・・ここにきたんだ」
あのワーウルフは今日から始めるといった。全く未知のことなので、嫌でも不安が広がる。
窓から外を見ると、アッシュが出掛けて行くのが見えた。魔物たちが全員そろい、見送っているようだった。
あの怖い人に教わらなくていいと、シャルは少しだけ安心した。
「・・・っひ!」
馬に跨り、門を出る瞬間。シャルはアッシュと目が合った。視線を感じたのか、なんとなくなのか、理由は定かではないがシャルの恐怖心をあおるのには効果覿面だった。
シャルはシーツを頭から被り、丸くなった。
しばらくしてからそっと窓を覗き、アッシュがいなくなったことを確認した。
―――キィ
「もう起きてたか。感心」
恐る恐る振り返り、アッシュでないと分ると力を抜いた。
朝食を持ってきたらしく、トレイを手の平で器用に持ちながら隣に座る。
「ありがとう」
「食べ終わったら始める。ゆっくりと食べたほうがいい」
頷いて朝食を頬張る。野菜が食べやすいように切ってあり、ドレッシングが3種類ある。
「え〜っと」
「全部試せばいい。いちばん右が・・・・たぶんレモンと・・・」
「ね〜え〜? ちゃんと説明してよ!」
床から首だけ出しているゴーストのトト。
「私はドレッシングはかけない」
「…はぁ〜。いいわ。私が説明するから」
「あ、のお」
「これがレモンとオ
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