第一話「芸術は戦いだ!? 美術品に宿る魔の香り!」編

阿成沢 知木霊(あなるさわ しりこだま) 【1832〜1920】

極東の島国・JIPANGUのBUNMEIKAIKA時代に名を馳せた稀代の芸術家である。
絵画・陶芸・彫刻・日本刀・果ては料理に至るまで…あらゆる分野に精通する彼の手腕は「神の手」と呼ばれるにふさわしいものであった。
しかし、彼の作品の現存数は極めて少なく、発見自体が奇跡の賜物と言われる程の希少さで有名である。
その現存する美術品の全てが「神や精霊すらも感動の涙を流す」と満場一致で評される素晴らしい品々だった。
波乱多き生涯を芸術に捧げ続けた「伝説の体現者」と美術史にも名を遺す人物である。
魔物には美しい芸術品を好む存在もいる。そんな者達にとって、彼の作品(と、恐らくは彼自身)は非常に魅力を持つ存在だったと言えよう。
しかし意外にも彼は「妖精の国」への誘惑を一切受けることもなく、88歳という(当時としては)大変な長命な「純粋な人間」としての生涯を全うした。
彼が人間としての生を貫き続けた真実が、この物語で明かされることになる……


――時は1914年、JIPANGU・OKAYAMAにある阿成沢の工房……

沈黙の中、一人の若者が老人の前に一本の花瓶を差し出した。
この老人こそが、「神の手」と称されて久しい阿成沢 知木霊先生その人であった。
目の前に置かれた花瓶は、まさしく先程窯から出されて完成を迎えた彼の作品である。

その細口の花瓶は、まるでほんのりと輝いているかのように美しい白色をしていた。
阿成沢先生は、その花瓶をしばらく見据えてから、目を瞑って一息ついた。
花瓶を彼の前に差し出した若者は数歩下がり、頭を垂れて巨匠の反応を待ち続けている。

その時である。花瓶に異変が訪れたのだった。
輝いている「かのように」見える花瓶が、本当に輝きを放ち始めたのだ。
輝きは徐々に人の形を模り、やがて小さな少女の姿となって現実のものとなった。
様々な美術品などに魅かれて現れる魔物、リャナンシーである。
「神の手」によって作り出した作品は、なんと神ではなく魔物を呼び寄せる結果となってしまったのだ。
リャナンシーは、自らを「妖精の国」からこちらが引き寄せた作品を見て、うっとりとした微笑みを浮かべた。
彼女の目から見ても、彼の作品は素晴らしく美しかったのである。
そしてついに、彼女の口から言葉が発せられ、沈黙が破られ――

「ねえ、あなたがこの美しい花瓶を作っ――」

ひゅん。

彼女が全てを言い終わらないうちに鼻先が何かをかすめた。
そして、

どぐわっしゃああああぁぁん。

自らを呼び寄せた美しい花瓶は、目の前で木端微塵に粉砕されてしまっていた。

「た?」

あまりの超特急展開に訳が分からず、間の抜けた声を上げるリャナンシーさん。
自分の鼻先を何かがかすめた事を思い出し、鼻の頭を指で触れてみる。
指先にうっすらと血がにじんでいるのが見えて背筋が凍りついた。爺さんのポン刀が鼻先を僅かにかすめていたのだ。
あと50センチ前にいるか、花瓶から出てくるのが8秒程遅かったらズンバラリンと真っ向唐竹割りされてたかもしれない。
そして眼前には目を見開き、血走った瞳で花瓶を睨みつけている刀を持った老人。
その横では若者が、老人を止めるために立ち上がろうとしたところであった。

「あ、あなななな、なななななな……」

突如のショッキングな出来事に満足に言葉を出せず、彼女はひきつったような声を上げることしかできなかった。
出てきた早々に美しい美術品を粉砕された挙句に危うく死ぬかもしれなかった状況である。絶句も無理はない。

「……終わりじゃ……」
「え?」

沈黙を再び破ったのは、喉から絞り出したような老人の声であった。

「このような……このような半端極まりない愚作が……集大成とは……」
「あ、えっと、あの……」
「最早ワシの芸術家としての生命は絶たれてしもうたのじゃァァァァッ!阿成沢 知木霊の名はもう、地の底に、奈落の果てに落ちてしもうたのじゃァァァアァッ!!」
「何を仰られます、先生!先生は現代JIPANGUの美と芸術を一手に担う巨匠ではございませんか!?」
「もしもーし……?」

リャナンシーさんの声をグランドスルーしたまま、老人と若者の押し問答が続く。
そして、老人はいきなり着物の前を肌蹴て、刀を自身の横腹に突きつけたのだった。

「雲刻斎!ワシは腹を切る!介錯いたせェェエエェッ!!」
「先生ぃぃぃぃッ!?」
「ちょっとなんなの、なんなのぉぉぉッ?!」

さて、この阿成沢先生であるが、芸術家としての手腕は誰もが認める確かなものであった。あったのだが。
この爺さん、どうしようもないレベルの癇癪持ちであり、自身の作品に僅かでも気に食わない点があればすぐさまぶち壊し、その上で自身の不甲斐
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