幕間の2〜当代・狸頂上決戦1

昔々の話。

ウロブサは自分に寄せられる書類に目を通している。
内容は組合に属している狸からの相談の山々である。

ウロブサは十人程に分身して、それぞれ案件をその種類と重要度で分類している。

「ふうむ、同属同士の色恋沙汰多いの最近は。」

相談内容としては様々で、正体がばれそうだからフォローしてくれというもの。
金の融資(組合所属者には易い条件と低金利で貸し付けてくれる。)。
組合を通じての情報の売り買い依頼。
周辺警護として信用できる用心棒を紹介して欲しいなど、
他にも多種多様な依頼が何でも舞い込んでくる。

特に多いのはやはり男絡みの色恋沙汰に関する依頼で、
目をつけた男性の身辺の情報調査。
自分の夫が女狐に色目を使われたから排除して欲しいなどという物騒なものから、
同属同士で同じ男性を好きになってしまったなどというものまである。

男の取り合いの場合もっとも重視されるのは男性の気持ちである。
仮に男性にもう好きなものがいる場合、それが人であれ狸以外の妖怪であれ、
それに組織として介入して曲げてしまうのは御法度である。

まだ男性の気持ちが固まっておらず、どっちつかずの場合。
同属としてある程度のフォローや助力は行う方針。
また男性がどっちつかずでかつ同属の取り合いの場合、
基本不介入を貫く方針である。

元々色恋の相談は多いとはいえ、
此処最近の相談件数は鰻上りである。
内容はほとんどが同属同士のそれで、しかも内容を見ると共通点が見られる。
力ずくで男をとある狸にさらわれたという内容のものである。

狸にも手癖の悪い者はいるし、
基本男の取り合いとなると自分に有利になるよう嘘をつく者や情報を隠す者も多い。
だからめんどくさいので基本この手の依頼はスルーするのだが、
此処のところあまりに多いのでウロブサは少々調べてみることにした。

「ヤオノ!ヤオノはいるかえ?」


※※※


調査の結果、北東、上州を根城にした一匹の狸が、
誰彼かまわず、気に入った相手と無理やり契っており。
すでに夫婦関係にあるものは当然キレて喧嘩になったが、
あまりの強さに返り討ちにあい泣き寝入りという事件が相次いでいることが判明。

流石にそんな暴挙は見過ごせないと、ウロブサはヤオノとランの二名を派遣。
説得を試みて叶わぬようなら力ずくで引っ立てよと指令を出した。

ところがである。二人に呼ばれてウロブサが所定の場所に辿り着くと、
耳を伏せて尻尾を垂らしてうなだれるヤオノ、
そして面目なさそうに頬に手をあて首を傾げるランの姿が目に入った。

「その様子じゃと、逃げられたか。それともまさかの返り討ちかの?」
「すびばぜん・・・」
「やられてしまいましたわ。」

じゅると鼻音を響かせるヤオノ、顔は見えないが涙ぐんでいるのが声でばればれである。
ランも静かだがその声に苛立ちを混じらせている。
その報告を聞いたウロブサはカカと笑う。

「なんとなんと、おまえら二人掛りでもその様とはのう。
これは久しぶりに血沸く依頼となりそうじゃわい。」

ウロブサが目を細め、その瞳の虹彩が怪しく輝き始める。
手のひらを上に向けるとそこには大きな葉が一枚あり。
それが風も無いのにひらりと浮くと、あっという間に一人の具足をまとった若武者に変じる。
その格好は当世風のそれではなくだいぶ古めかしい鎧であった。

「さ〜て、跳ねっ返りのじゃじゃ馬はどこかのう。義経。」
「天眼(てんがん)。」
若武者の瞳が全て白くなり、カッと見開かれる。
そしてぐるりと首を巡らすとある方角を見据える。

「見つけたか・・・それじゃあの二人とも、わしは先に行くが、
後から付いて参れ、終わっとるかもしれんがの。」
「神足(じんそく)。」
ウロブサは若武者と手を繋ぎ、そして若武者が軽く跳ねると、
二人はその場から掻き消えるようにいなくなっていた。

一連の流れを驚愕の瞳で見ていたヤオノはランに尋ねた。
「今のは?」
「そういえばヤオノはあの人の力を見るのはこれが始めてだったかしら?」
「はい。細かい術なら日々の業務でも見ていますが、戦うためのものとなると。」
「なら急ぎましょう。見ておいて損はないわよ。あの人の源平合戦は。」


※※※


「なあ、いいだろう腹が減ったんだ。食わせてくれよ。」
「待ってくれ、会ったばかりの女人とそのようなことをする趣味は無い。」
「いいじゃないか。気持ちよさは保証するよ?
それに最初は駄目だとか言ってても、そのうちもっとしてくれと懇願するようになるさ。」

開けた砂浜で、精悍な顔付きをした長身の女性が男を組み敷いていた。

「本当に待ってくれ、貴君は十分魅力的だし何も無ければお願いしたいくらいだ。
でも僕には許婚がすでにいて、これからその人に会いに行く途中なんだ。」

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