エピローグ 雪は星に成りて

薄暗い店内を木目とレンガの茶色が彩り、
暖色の薄明りに浮かび上がるグラスや色とりどりの酒瓶が上等な宝石の様だ。
シックな店内で曲線を活かした木製の椅子に座り隣り合う男性が二人。
グラスを満たす琥珀色の液体は指で表す程の量で、
その液体の度数が高い事を見て取ることが出来た。

「事件は無事解決。お前も稼ぎをあげたんだろ? 此処は奢りなよ。」
「心霊探偵の旦那はゴーツクですな。残念ながら今回の稼ぎはありやせん。
旦那や指紋の鑑定に依頼した分、足が出ちまったくらいでしてね。」

屋内だというのにモコモコの毛皮コートを脱がず肩を竦めるエレン。
彼はそれなりに有名人であり、この店は行きつけの一つなので、
彼の格好に口を出す店員や客はいない。

「ん? どういうこったいそりゃ。」
「いや、報酬は施設にあった金目のものの三割って言う契約でして。」
「何も無かったってのか?」
「ええ、全くありやせんでした。物自体はオーパーツってんですか?
当時としては信じられない技術の結晶ばかりだそうで、
ただ金に換えられるかというと、そっちは全然でして。」

「それはそれは・・・ん? 何だよ。此処はこっちが出すってか?」
するすると探偵の懐から財布が独りでに浮かび出ると、
2人の間に置かれて勝手に開いて札とコインが飛び出てきた。

「いやいや奥さん、痛み入りやす。」
「ったく、家のカミさんは無欲で昔から面倒見が良いからな。」
「どうぞ社長、好きなだけ惚気てくんなせえ、
それを黙って聞くくらいはチップ代としてサービスしやすぜ。」
「うるせえ、確かに内は従業員がいつかない零細探偵社だよ。
ったく、どいつもこいつも夜中のラップ音の一つや二つでビビりやがる。」

「またまたあ、一つや二つじゃないでしょう旦那。
鏡に映るけど振り返るといない血まみれの誰かとか、壁の中からする引っ掻き音とか。
相当肝の据わった御仁じゃ無けりゃ務まりやせんって。」
「そんなもんか? ちくしょう。感覚が麻痺してんな俺。」

慰めようとしてるのか、
探偵の奥方が後ろから優しく彼の頭を抱きしめていた。
無論それが見えるのは探偵と、それなりの力を擁するエレンだけだったが。

「しかし今回の件は助かりやした。
裏付けを短時間で取るのは旦那の手腕無しでは不可能でしたから。」
「隊長に話を聞いた時点で犯人は確定したし、後はそっちの線から追えば良かったからな。
国境近くの少し内側、オジブワの村落の一つがまさかアルゴンキンのスパイ養成地とはな。
郵便関係の人間は、過疎気味の村にしてはやたら手紙の量が多い事には気づいてたがな。
それが家族にあてた近況報告に偽装した。国政を始めとした機密情報の漏えいだと、
思い至るものは流石にいなかったが。」

「オウルの旦那を始め、年頃になると働きに出て婿入りするか、
何処かに嫁入りして引っ越しを経て、巧妙に関係者ぐるみで出身地を誤魔化してやしたね。」
「まあ今回の件で仕組みがばれちまったからな、
国が本気になれば残りも間もなく一網打尽だろう。
あそこの集落一つとは限らないが、手紙など情報のやり取りが異常に多い、
場所や人物を絞り込めばいいわけだしな。
アルゴンキンは向う数十年、諜報でオジブワに対し大きな後れを取るだろうさ。」

2人は喋りで口内が渇いたのか、目の前の液体を喉元にグッと流し込んだ。
喉奥からモルトとアルコールが呼吸し、追いかけて古い樽の香気が立ち昇る。
胃の奥からカッとした熱が上がってきて体にまわっていく。

「さて、只働きのエレンに労いといくか?」
「いえ、今回の件は端から報酬を受け取る気はありやせんでしたから。」
「それって、あの施設の内情は最初から知ってたってことか?」
「ある程度は、今回の件はあっしからして見たら、
身内の不始末のケツ拭きでしたから。」
「ケツ拭き・・・・・・誰の?」
「マイワイフ。」


※※※


「スンスン。」
「どうしたってんですかい? 泣き顔なんてハニーには似合いやせんぜ。」
「グスグス・・・どうしようダーリン。」
「いってえ何が悲しいんでさあ。ハニーがそんなじゃああっしもつれえ。」
「あたし、魔王様からメってされちゃう。怒られちゃうよお。
ケームショに入れられてダーリンと会えなくされちゃうかも、
そんなの・・・・・・やだ〜〜〜〜〜〜〜。」

ゴロンゴゴロンゴ
滝の様な涙を撒き散らしながら、
モコモコ白毛玉がエレンの前で回転していた。
エレンはその回転を見切り、回転の中心部、そのむっちりした尻肉を摘まんだ。

「アン
#9829;
#9829;」
「落ち着きなせえ。」

頭を撫でる様に尻を撫で、目の前の毛玉を落ち着かせるエレン。
体を包む白いモコモコ、それとは対照的に健康的な褐色ムッチリの肌。
彼女はイエティのミティ、エレン
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