「ウェンディゴ・・・ですか?」
「ええ、雪山で毛深い影とくればこいつかイエティ、更に吹雪の中で声はすれど姿は見えず。
という特徴を持つとなれば十中八九、皆さんが遭遇した影の正体はこいつでしょう。」
目的の施設に到着して早々、エレンはオウル達に事件の真相を語り始めた。
それが依頼達成に必要な事だという言の後に。
「見たことは無いですが聞いた事はあります。人里離れた奥深い場所に住む魔物で、
吹雪の中現れ人をさらったり助けたりする気紛れな奴だとか。」
「ふむ、まあその理解で大体問題ないですがね。」
「しかし何故そんな奴らが我らを襲うのです?
この施設を守る為と考えるのが妥当だと思われますが。
だとすると此処で迎え撃つのですか?
施設の外に潜んで居た方がいいのではないでしょうか。」
オウルらは入口の方を気にするように言った。
無理もない、吹雪はこの施設を遠巻きにしているが、
自分達が此処に居る以上、その中に潜むウェンディゴらまで追ってこれないとは思えない。
「いいえ、此処でいい。此処だからいいのです。
まず旦那方は大きな勘違いをしていらっしゃる。
ウェンディゴは基本とても臆病で温厚で大人しい魔物です。
彼らが人を襲うなど、あっしの見聞きした限りでは一度もありやせん。」
「・・・ですが我らは実際彼らに追跡され、調査隊が壊滅しています。
今までの調査隊の報告、そしてあの遺体はエレンさんも見たでしょう?
あの影がウェンディゴだというなら、彼らに害意が無かったなど信じられません。」
エレンの言葉を言下に否定するでなく、オウルは思案し別の解を提示した。
「・・・・・・・そうだ。此処は旧魔王所縁の研究施設だった。
此処に凶暴で特殊な個体が封印されていて、何かのはずみで封印が解けた。
暴れているのはそれなのでは? そう考えると筋が通ります。」
オウルの言葉に隊の皆も頷く、彼らは以前調査隊に加わっていた者達だ。
過去の出来事、其処に確かにあった悪意を肌で感じていた。
「主権の問題なのです。其処を取り違えてるから全てが間違う。」
「主権? 一体全体何の話をしているのです。」
「旦那方が出会ったのは吹雪を伴って追ってくる魔物ではなく、
追ってくる吹雪に追従している魔物なのです。」
場が静寂に包まれる。エレンの言った二者の違いが呑み込めず皆黙る。
その二つの何が違うというのか? そんな目で皆エレンを注視している。
「何が違うのか? 全然違いやすぜ。
吹雪の方何でさ、皆さんを追っかけてるのは。
おそらく其処で薄ぼんやり明滅してるオブジェ、
それが吹雪の制御をしているんでさあ。
此処は旧魔王軍の施設、人払いの仕掛けがあったってなにも不自然じゃない。
そしてウェンディゴ達はその吹雪にくっついて移動してるだけ。
何でそんな事するのかって? 助けるためですよ。
その吹雪に捕まって遭難する皆さんの様な人間をね。
元々臆病な彼らが吹雪の中でだけ目撃されるのも、
遭難者を助ける習性があるからですしね。」
それを聞いた一同は目をむいてエレンや周囲の者達と顔を合わせる。
エレンの言った事を呑み込もうとしたり、信じられるかと無言で問うたりしているのだ。
「大勢の行方不明者が出ています。助けているならおかしな話では?」
「介抱した後、ウェンディゴは望んだ者を自分達の集落に向かえます。
殆どの者がその道を取る為、彼らは人さらいと思われている。
まあその魅力に抗いがたいと言う点では、誘拐と大差ないかもしれやせんが。」
「・・・・・・では、隊長の件はどうなります? 直に手を下して殺している。」
「そう・・・この事件のキモは其処です。ウェンディゴでないなら誰があれをやったのか。
まあウェンディゴは犯人足り得ない、それが判ってさえいれば推理は簡単でした。
答えは至ってシンプルですよ。そうでしょう? 隊長護衛役として被害者の最も近くにいて、
彼が殺される所を目撃した。オウル第三次調査隊副隊長殿。」
エレンはゆっくりとオウルの方に指をさすと宣言する。
「旦那があの凶行の実行犯、ブリザードモンスターでさあ。」
※※※
夢は何だ。そう聞かれたら君はどう答える?
私は兄からそう聞かれて答えられなかった。
兄はそうか・・・と言ってそれっきりだ。
何の事はない、他愛ない会話。天気の話と一緒。
でも私にとって、その言葉は抜けぬ小骨の様で。
誰かと問われる前に言っておくと、
私はシェニ=フェラモール、しがないマンナン芋農家の次男坊だ。
季節は朝から晩まで野良仕事。
畑を休ませる季節は山にある洞窟に行き、
其処の岩を削り出す作業をする。
これを混ぜるとプルプル度が上がるらしく。
そのおかげで家のマンナンは少し高値がつくとのことだ。
まあ他にも色々あるが、貧乏暇なしを地で
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