その6 誕生?! ブラックドラゴンナイト。 そして現れる大いなる闇

白く白く白く。どこまでも果て無く白い
音も光も白く塗りつぶされて消えてしまったかのようだ。
自身の心音が響き、耳鳴りさえしそうな虚無という無限。

寄る辺の無いそんな場所にただ一つ。
ポツリと佇むドアと、傍らにむき出しの歯車を組み合わせた様な大時計が浮かぶ。
そんな時計の傍で胡坐をかく、全身を鎧で包んだ人物が一人いた。

集中、全身の感覚を紙縒りのように捩って縮める感覚。
そうして捻りだしたものを全身に行き渡らせる。
見る者が見れば、彼の体をとてつもない量の魔力が覆っているのが解る。

(さて、だいぶスムーズに出せるようにはなった。問題は此処から・・・)
集中、更なる集中、自分という海の更なる深みへと潜るように・・・
彼はそうして自身を覆っていたものを、徐々に徐々に変形させる。
さながらそれは、足の先からスタートしたナメクジが指先に到達するまで、
一度も呼吸と瞬きを出来ぬような歯がゆさだ。
そうして全身を覆っていたそれを、指先だけに纏わせることに成功する。

やった! そう心の中で思った。その瞬間。
その揺らぎが水面に投げ入れられた小石の起こす波紋の様に、
彼の集中を僅かに乱す。そしてそれはてき面に指先に現れる。
「おおっ?!」

まとまっていたそれは、ボワンッ とシャボン玉のように膨れて弾けた。
それを見た男は、止めていた息を深く吐き出して肩を落とした。
(好きな形に固定する事がこれ程難しいとは・・・
あの男はこの状態を維持しつつ、同時に超音速の戦闘もこなしていたというのか。)

男は自分を負かした相手が、改めて遥か上の存在であった事を噛み締める。
その時、男の傍にあったドアがガチャリと開く。
薄っぺらく立っているだけのそのドアだが、
開いた枠の中には別の風景が広がり別の場所に通じているようだった。
そして其処から豪奢なサラリとした金髪が顔を出す。
海の様な碧い瞳のキリリとした印象の女性だ。

「やはり此処におられましたかラウム様。」
「ん? おおヴィエルか、どうした?」
「修行中の所まことに恐縮では御座いますが、レヒト様が御呼びで御座います。」
「そうか・・・今行く。それにしても・・・辛くはないかヴィエル。」
「少々は・・・ですがこれも務めなれば苦にはなりません。」
「下級神族の身で大したものだ。やはりお前を御付にして正解だったな。」
「お褒め頂き恐悦です。」

胡坐をかいて修行に高じていた男、彼は主神の子で上級神のラウムだ。
主神と魔王が和解した先の大戦において、
魔王とその夫を暗殺するために創造された闘神の一人である。

そしてヴィエル、今は鎧を抜いでいるため判別しづらいが、彼女はヴァルキリーだ。
天界ではその役目によって様々な種類や階級の天使がいるが、
彼女達ヴァルキリーの役目は魔物との戦闘、
そして勇者の発見と育成に特化されている。
しかし主神が魔王と和解したことにより、
地上での勇者余りと同様に、天界でもヴァルキリー余りが起きていた。

そんな中、彼女はラウムの世話係や秘書の様な役を任命されていた。
その最たる理由の一つが彼女の肉体の強さだ。
戦闘に特化したヴァルキリーの中でも、どちらかと言えば肉体派の彼女。
その体には女性らしい丸みは少なく、
アスリートか格闘家の様な締まった体をしている。
彼女に求められたのは、様々な過負荷が掛かるラウムの修行場に出入りして、
彼を呼びに行けるという事であった。

「最初は立つのも辛かったですが、
最近では気を張っていれば、少しは動きまわれるようにもなりました。」
「うむ、素晴らしい。最初に御付にした軟弱なエンジェルなどは、
扉を開けようとしたまま動けなくなって失神していたからな。
あれではお使い一つ任せられん。かといってあまり上位の天使は仕事で忙しいからな。
お前辺りが適任というわけだ。今後も精進して怠る事のないようにな。」
「はい! 今後もラウム様の御付として恥ずかしくないよう。
日々健勝にありたいと存じます。
しかし心配なさらずとも、こうして貴方様を御呼びする。
この行為だけでかなりの修行になっておりますので。」

ヴィエルは気丈に振る舞っているが、その額にはすでに滝の様な汗が見えた。

「ふむ、まあそうだな。このメンタルとタイムのルームは、
上級神である私用に調整されている。
軽い出入りだけでも天使には大変な負担だろう。
前任のエンジェルは高重力で胸が垂れるだの潰れるだのと五月蠅かったが、
少々悪い事をしたと思わんでもない。」
「ええ、本当に・・・私もただでさえ薄い胸が減って。
ほぼ筋肉になってしまいました。」
「良いではないか、健康的で禁欲的なその肢体、
慎ましやかな方が良いという男もおるだろうさ。」
「そ・・・そうですか。因みに・・・ラウム様は・・・」
「ん? 私が
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