「私の話・・・ですか?」
「うん、おじさんのおけがなおるまでひまだし。
チェルヴィしりたいな! しりたいな! おじさんのこといっぱいいっぱい。」
二人は逃亡後、気絶したエスクードが起きて現状をチェルヴィから聞き、
彼はその限界が来ていた体を休ませつつ、今後の方針を練るために考え事をしていた。
だが、お子様のチェルヴィにはその沈黙は退屈至極だった。
大きな病院で待たされてる子供のように、ジッとしていられないのだ。
好きな人の傍にいるドキドキを一人では消化できないというのもある。
「う〜〜〜〜〜。」
ゴロゴロゴロ
「ぬ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。」
ゴロゴロゴロゴロゴロ
ゴッ!!
丸められたマットの様な細長い体を伸ばし、唸りながら転がりまわるチェルヴィ。
角が洞窟の一画にぶち当たり大きな音と振動を上げる。
「待ってくださいチェルヴィ。」
「なあに?」
「大きな音を立てては見つかってしまいます。」
「そっか・・・うん、判った。」
しかしその判ったも五分持たなかった。
彼女は今度はその長い体で器用にでんぐり返しをして転がり始める。
だが尻尾が壁面に叩きつけられ洞窟の壁に大きなヒビを入れる。
そんなこんなでエスクードは彼女の気を紛らわすため、
話相手を買って出た。そして冒頭の一コマと相成ったわけである。
「判りました。貴方には命を救われましたし。
聞きたいことがあれば何でも答えますよ。」
「なんでも?! じゃあじゃあおじさんはチェルヴィのことすき!!」
「ええ、好きですよ。貴方を見ていると、昔飼っていた愛犬の事を思い出します。」
「やったあ! うふふ、チェルヴィしってるよ。そーしそーあいってやつだよね。」
胸に顔をうずめ尻尾をめちゃくちゃフリフリしてるチェルヴィの頭を撫でながら、
エスクードは少ししまったという顔になる。
未婚の魔物にとって異性へのライクとラブは果てしなく近しいものだ。
以前にそう不死者の女王イールに教えてもらった事を思いだす。
とはいえ、今目の前で満面の笑みを浮かべる彼女を相手に、
その無垢な笑顔を曇らせる様な事を彼は言う気になれなかった。
「それだけですか? 他にも聞きたいことはありませんか。」
「おじさんふとっぱら! うーんとうーんとそれじゃあ。
おじさんのおはだはなんでいろがかわるの?」
「ああこれですか。それではウェンズの紹介もしておきましょうか。
チェルヴィ、私の肌は何色に見えます?」
「くろっぽいかんじ。」
「そうですね。普段は浅黒く見えます。
ですが私の本来の肌の色はかなり白いんです。
母親譲りでして、知らない人から見れば病的に白いんですよ。」
「でもいまはくろいよ・・・いっぱいひやけしちゃったの?」
「いえいえ、チェルヴィは刺青(タトゥー)を知っていますか。
体に文字や絵を彫る装飾の事です。」
「さきゅばすのおねーさんとかがからだにいれてるやつ?」
「そうですね。ルーンもタトゥーの一種です。
そして私の全身にはビッシリと細かい文字が彫り込まれているのです。
霧の大陸やジパングには米粒に細かい文字や絵を描くアートがあるそうですが、
それよりもっと細かい文字が全身に隈なく彫り込まれています。
余りにも細かくて肌の色が白と黒の部分に分かれてではなく、
全身が間の浅黒い色に見える程に細かい文字が書かれています。」
ペタペタとエスクードの頬に触れるチェルヴィが不思議そうに見上げる。
「おじさんはどうしてそんなことしたの?」
「力が欲しかったんです。誰かを守り誰も傷付けないように。
私とぶつかった時、とても硬かったでしょう?」
「うん、きとかおいわよりもずっとずっとカチカチだった。」
「私の体が異常に硬いのはこの全身に入れられた文字のおかげなんです。
この文字にはありとあらゆる防御呪文や耐性向上のルーン、
それに相当する効果が含まれています。」
「ふーん。あれ? じゃあまっくろくろになったのはどういうこと。」
「ええとですね。それは説明するより見てもらった方が早いですかね。」
そういうとエスクードは初歩の光魔法を唱え指先に光源を発生させる。
光る苔で薄暗い洞窟の一画が室内のように明るくなる。
そして彼の体表に変化が現れる。浅黒い色が移動していき集まっていく。
やあ こうしてかいわするのははじめてかな チェルヴィ
彼の右腕に集まった色素が形を変え、文字を形成しては変形し続け文章を形作った。
「ふしぎふしぎ! おじさんこれどういうこと?」
「このタトゥーはね・・・生きているんだ。独自の知性がある。
状況に応じて自在に形を変えることも出来るんだ。
君が見た黒い私は、気絶していた私に代わってこの彫り物が体を動かしていたんだ。
その時にはああいう風に、全身が活性化したこいつに覆われて真っ黒にな
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